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2011-11-05 11:11

だれもソ連崩壊を予測できなかった?

山本 勇一  元大学教師
 飯島一孝氏の10月31日付け本欄への投稿「ソ連崩壊を予測できなかった日本のロシア・東欧専門家」によれば、過日、そのような結論の研究報告会が開催されたそうである。確かに、自己反省やそのための自己批判は、必要であり、かつ評価されるべきであるが、それが実は姿を変えた自己防衛や自己正当化であれば、問題の根はさらに深いと言わねばならない。この研究報告会なるものの正体は、どちらであったのだろうか。

 この研究会では、伊東孝之・早稲田大学教授が「当時日本の専門家の間では、社会主義国には一定のユートピアを目指す、多分に統一的な、良かれ悪しかれ機能する社会体制が存在しているという考えが支配的で、社会主義に好意的であった」と述べ、「党の権威が低下する事態が相次いだのに、大半の専門家はソ連崩壊を信じなかった」との報告をし、結論として同教授は「ロシア東欧専門家も時代の子であり、後進国として先進国へのユートピア的な憧れがあったうえ、敗戦国として戦勝国へのポジティブなイメージがあった」と認めたという。

 伊東孝之教授が自分自身とその(いわば)仲間の過ちを認めたのは、前進であり、評価したいが、あたかも「当時の日本の専門家」すべてが同じ過ちを犯していたかのような結論を、この時点になってもまだ出しているのは、「姿を変えた自己防衛や自己正当化」の試みではないのか。というのも、ソ連崩壊の20年以上も前(ブレジネフ時代末期)から、ソ連体制の多面的かつ実証的な研究によって、ソ連体制の停滞と崩壊を予測する声はあちこちから聞こえていたからである。

 米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が35人の最高レベルのソ連研究者を動員して、1981年から1年半の歳月をかけて集大成したソ連研究の古典『ブレジネフ後のソ連の行動の源泉』などは、その代表的なものである。ベルリンの壁の崩壊の1年前にソ連崩壊を予言し、全米でベストセラーになったブレジンスキーの大著『大いなる失敗』はいうまでもない。「それは米国の話だろう」という言い訳が許されないのは、両著ともその直後に日本でも全訳が紹介されている(訳者は伊藤憲一)からである。伊藤憲一氏は、『文芸春秋』や『諸君!』の誌上でソ連崩壊の前からたびたびその可能性を論じておられたことも指摘しておきたい。
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