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2011-11-07 06:54

限界に達した野田の安全運転路線

杉浦 正章  政治評論家
 物事には程度というものがある。首相・野田佳彦の「安全運転」路線なるものも、まさに「過ぎたるは猶(なお)及ばざるがごとし」であろう。安全重視のあまりに国内で発言しなかった、消費税増税という超重要政治決断を国際舞台で表明、国際公約を先行させてしまってはいけない。税金を払うのは各国首脳でなく、日本の国民であることを忘れてもらっては困る。せっかくの“決断”も、日本で表明しないから、国内からは批判され、主要20カ国・地域(G20)首脳会議首脳らからは無視される、という醜態である。11月7日からの予算委員会答弁で集中攻撃を浴びるのは必至だ。確かに「野田さんちのドジョウ君、近ごろ少し変よ」と言いたくなることが頻発している。ひとつは、前首相・鳩山由紀夫への陳謝問題だ。話の展開はまず、外相・玄葉光一郎が普天間移設で「最低でも県外」とした鳩山発言を「あの時点でああいった発言をしたのは誤りだった」と批判した。これに関して、野田は先月27日の会合で鳩山に「間違いであり、申し訳なかった」と陳謝したのだ。鳩山内閣が吹き飛んだ事件であり、この発言で普天間移設が事実上不可能になったのである。まさに覆水盆に返らずで、ざんきに絶えない舌禍事件であるのに、これを擁護したことになる。玄葉が辞任してもおかしくない野田の対応だ。党内融和も度が過ぎている好例であり、当然予算委における追及の対象となる。

 もう一つはG20で「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げる。増税を実現するための法案を2011年度内に提出する」と発言した問題である。野田は、国内的には6月に閣議で決まった周知の政策であるという認識で、発言したのだろうが、所信表明演説でも触れなかった消費増税を、まず各国首脳に公約するメリットが果たしてあるのだろうか。誰が見ても首相としてはまず、国内や国民に報告してから、国際公約にすべきではないか。野田の狙いはおそらく、ギリシャと違って日本は財政再建路線を歩む方針を明示することにより、各国の危惧を和らげたいというところにあったに違いない。前幹事長・岡田克也だけが「日本への財政懸念にびしっとメッセージを送った」と賛辞を送っているが、各国の反応はと言うと、ほとんど無視だ。野田自身が会議後、あっけらかんと「どこからも何のコメントもありませんでした」と述べているように、各国首脳の関心はギリシャ危機に集中して、とても野田発言にまで至らなかったのであろう。

 この結果、朝日新聞が「首相、国内では沈黙、消費増税突然の国際公約化」と批判、民放テレビは皆これに習って批判の大合唱だ。野田が“変”なのは、自らの雄弁を代表選挙に際しての票稼ぎに使って以来、所信表明でも、本会議答弁でも、記者団への対応でも、いっさい封じてしまったことにある。官僚の作文の「棒読み首相」と化したのだ。前自民党政調会長・石破茂が「国民への説得という、首相の一番やるべき仕事を放棄して、大事な問題は外国でばんばん表明している」と、政治手法を批判しているとおりだ。公明党代表・山口那津男も「独りよがりで物事を進めようとする本質が見えてきた」と対決姿勢を強めた。しかし、この超安全運転が通用するのは先週までだ。今日7日からは、答弁書棒読みが利かない予算委の質疑に入る。野党は、このあまりにも防御に徹した首相の政治姿勢を突くだろう。加えて超ど級テーマの環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加、消費増税、普天間移設問題の「3大地雷原」へと誘導を図るだろう。

 とりわけTPPは、12日からの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議をタイムリミットとしており、決断を避けて通れない。自民党の加藤紘一が農協票を意識してか「TPP交渉は入ったら抜け出せなくなる地獄だ」と述べているが、筆者に言わせれば、「退けば貿易立国日本の地獄」だ。野田は「いずれにしても私の政治判断となる」と覚悟のほどを見せている。民主党政権始まって以来最大の首相“決断”マターだ。流れは、民主党が9日に提言をとりまとめ、10日に野田が参加を決断して、記者会見で説明し、ASEANで正式表明する段取りであろう。こうして「逃げドジョウ」は、滑り止めつきの軍手で取っ捕まる方向となってきているのである。しかし、野党も自民党総裁・谷垣禎一が最初は「交渉参加」論であったにも関わらず、「参加時期尚早」論に変わっており、反対の国会決議まで唱えるようになった。どうも谷垣は「反対のための反対」野党に、自民党をおとしめているように見える。TPPはまかり間違うと政局化し、反対派の離党に端を発して政党の分離・再統合という政界再編への導火線にもなりかねない要素をはらみだした。
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