国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-11-15 09:51

(連載)欧州の財政・金融危機を見て思う(1)

茂田 宏  元在イスラエル大使
 ギリシャ政府が債務不履行に陥りそうな状態になり、それへの支援策をドイツとフランスが中心となって打ち出してきた。欧州金融安定化基金(EFSF)の支援規模の拡大、銀行保有対ギリシャ債権の50%の実質的な放棄、銀行の自己資金拡大、ギリシャの財政再建のための歳出削減など、包括的対策が10月27日発表された。しかし、ギリシャのパパドレウ首相は「EUと合意した対策案を国民投票にかける」と発表し、混乱を招き、結局ギリシャでは国民投票の中止、パパンドレウ首相の辞任、大連立の形成、新首相の選出ということになった。11月11日、新首相にパパニデモス氏が就任した。ギリシャの危機が収束に程遠いなかで、今度はイタリアの国債が急落と言ってよいほど値下がりし、11月8日には、ベルルスコーニ首相が辞意を表明し、財政再建策の議会通過を受け、11月12日には辞任した。ベルルスコニー首相の後継は、モンティ元欧州委員が有力になっている。

 この欧州の財政・金融危機はまだまだ続くだろう。結果として、欧州経済は減速すること必定である。世界経済にも悪影響を与えるだろう。欧州中央銀行が大決断をしてイタリア国債を大量に買い支えないと、どうしようもないが、ドイツの反対などがあり、そういう決断をなしうるか疑問もある。財政連合なしに通貨連合を作った基本構造に問題があったとされている。もしそうだとすると、ユーロ圏の統合深化か、ユーロ圏の部分解体か、のような過激な対処案が必要になる。そこまで行くか、その前に収拾されるかについては、多分後者であろう。

 しかし、ギリシャ、さらにイタリーの緊縮財政だけでも経済の縮小にはなる。ギリシャ、イタリーなどの国では、ポピュリズムに陥り、収入に見合わないバラマキをし過ぎたことなど、民主主義の弱点が出たように思われる。ギリシャでは党派性を排除したテクノクラート内閣の成立ということになった。イタリーでもそうなる蓋然性がある。そもそも政党というのは英語でpolitical partyというが、partyという語はpartより派生した語で、全体ではなく部分を代表するという意味である。したがって、政党政治は党派性を前提とする政治である。しかし国全体に関することをこの党派的議論のなかで処理することは、うまくいかないこともある。外交・安保政策の基本は、超党派的基盤に基づくべしというような良識が過去のアメリカにはあったし、いまもその残滓があるが、超党派で取り組むべき場合には、そうすべきであろう。

 官僚制は党派性を越えた制度であり、時の政権に仕えるものであるが、大筋では国全体のことを考えることを職業的任務としている。ポピュリズムとは程遠い専門家集団である。ギリシャ、イタリーでのテクノクラート内閣の成立は政党政治の失敗への反省であるとも言える。与野党が党派政治の観点から足の引っ張り合いをし、危機を深化させる状況は日本にも無縁ではない。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム