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2011-11-16 09:47

(連載)欧州の財政・金融危機を見て思う(2)

茂田 宏  元在イスラエル大使
 最近日本では、政治主導がよいこととされ、官僚を抑えつけることが民主主義の正義のように言われているが、必ずしも正しい議論ではない。選挙で正統性を持つ政治家が、国全体のことを考える官僚を尊重して、ともに協力して国を運営するのが適切であろう。その役割分担をどうするのがいいのか、それは課題や局面により異なるであろうが、単純な政治主導スローガンの是非はよく考えるべきであろう。

 明治憲法下では、政党から超然とした内閣がよいとされた時もある。官僚が天皇の官僚とされたこともある。そういう発想がよいとは言わないが、いわゆる政局にうつつを抜かす政治家は、もっと国家のためには不都合である。中国は独裁制と官僚制と市場経済の組み合わせで、高成長を成し遂げている。他にも同じようなことを試みている権威主義的政権がある。そういうモデルと民主主義のモデルが競争しているような様相が今の世界にはある。

 この競争において、民主主義が失敗するようなことになると、人々は人権が尊重されない世界に生きることになろう。そうならないように、欧州も日本も何とか今の危機を乗り越える必要がある。アリストテレスは民主性―衆愚制―君主制―僭主制―貴族制―寡頭制の政体の循環論を説いたが、民主主義が衆愚政治に陥らないようにする必要がある。日本の財政赤字はGDP比では200%にも達し、ギリシャやイタリーの債務のGDP比を上回っている。日本の国債はその95%程度が国民により保有されていること、日本が世界第1の債権国であることなど、日本とギリシャやイタリーは事情が異なるが、今のまま債務を積み上げて行くと、近い将来非常な困難に直面しかねない。その時に慌てないように、先を見た政策展開は避けて通れないことであろう。

 私の外国人の友人は「日本政府が国民の信頼を獲得する能力には感嘆する。生産額の2倍の借金を抱える企業の社債を売ることはまず不可能であるのに、日本政府はそれを成し遂げている」と述べていたが、こういう無理は早晩破たんするので、早めに是正する必要があろう。EFSFの拡充については、欧州は25%までは保障するということで、レバレッジを効かせたつもりでいる。それでBRICSの資金を引き寄せようとしたり、IMFから資金を得ようとしている。IMFはともかく、BRICSが欧州を救うために資金を出すであろうと期待するのは甘い。ECBによるイタリー国債の購入を増やすなど、欧州はもっと自己努力をしないといけないように思われる。(おわり)
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