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2011-11-23 00:58

(連載)突破口見えない野田TPP外交(3)

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 ところで、TPP各国との協議開始は前述のように来春ごろと見られるが、その際日本側がどのような外交力を示すことができるかだ。米国に寄り添い、安全保障面でモノが言えない日本外交は、過去の長い日米経済摩擦でも米側の要求を飲まされてきた。普天間飛行場の移設問題の迷走は日米関係に深い傷を残し、問題解決のめどは立っていない。鳩山内閣以来の民主党政権で生じた齟齬を修復することに精いっぱいの野田政権が、今後のアジア戦略で米国に物申すことができるとは思えない。APEC首脳会議に先立って開かれた閣僚会議では、TPP問題をめぐって米中両国のさや当てが表面化したという。

 朝日新聞(13日付朝刊)によると、閣僚会議後の記者会見は、本題のAPECではなく、TPPに質問が集中したという。その中で、朝日の記事は中国の兪建華商務次官補と米通商代表部のカーク代表のやり取りを次のように伝えている。
 兪次官補「(TPPは)開かれたものであり、かつ透明であるべきだ」
「今までわれわれは(TPP参加について)何の招待も受けていない。もし招待を受ければ真剣に検討するだろう」
 カーク代表「中国の仲間に言いたい。TPPは閉ざされたクラブではない。誰でも歓迎するが、招待状を待つようなものではない」

 つまり、カーク代表は即座に兪次官補に反論し「関心があるなら中国自らが進んで参加すべきだ」と挑発した、と記者は記している。カーク代表の隙を見せない反論が外交の厳しさを表している。肝心の日本はどうかというと、貿易自由化の決意を問われた枝野経産相は「さまざまな検討をして、こうした決断をした」との「役所答弁」で、国内情勢の調整不足をにじませたという。外交交渉は何が飛び出すか分からない。首相は「各国が求めているものをしっかり把握し、十分な国民論議を経た上で、あくまでも国益の視点に立って結論を得る」というが、そんな正論、建前が現実の外交で可能なのか。「ミスター・円」と呼ばれて国際通貨問題の交渉に長いこと当たった榊原英資元財務官が言うように、「今は議題でなくとも、米国はいろいろな要求を出してくるだろう。後ろには必ず業界がついている。USTRの人は『企業のために交渉するのが、役人の役割だ』と明言していた」(朝日新聞11月2日付朝刊)ことを肝に銘ずるべきではないか。各省バラバラの利害・思惑が錯綜する霞が関が、TPP参加各国、特に自国の基準を押し付けて来る米国と渡り合える外交、通商力があるのか、はなはだ疑問である。

 イラク、アフガニスタンからの完全撤退を前に、「欧米国家」から「太平洋国家」に軸足を移した米国の外交戦略は、「APECを足場として、安全保障態勢を融合させたネットワークの強化」(朝日新聞13日付)を目指している。外交初体験の野田政権は、否応なしに国際政治の渦の中に巻き込まれた。それが主体的な選択だったのか、あるいはそうせざるを得なかった受動的な選択だったのかは問わない。「総論」や「正論」を語ることが多い首相だが、肝心の具体的なことになると言葉を濁す。「自ら判断した」と言うが、背後に財務官僚や外務官僚の影がちらつく。「正心誠意」が野田流政治の“哲学”なのか、あるいは単なる言葉のあやなのか。首相は早稲田大学出身の国会議員らでつくる「国会稲門会」(16日)の会合で「あまり駄弁をろうすると、さらに支持率が下がるかもしれません」と自虐的なあいさつをした(産経新聞16日電子版)という。言葉は政治家の命である。話の下手な政治家は論外だが、自分の言葉に酔う政治家もいただけない。言葉と同時に実行力、判断力、説得力、指導力を伴わないようでは国益の追求は期待できない。(おわり)
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