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2011-12-30 14:34

(連載)国連の場から見た世界情勢(1)

兒玉 和夫  国連日本政府代表部次席常駐代表
 2011年という年は、日本のみならず世界にとっても格別の意味をもつ年となったと思います。恐らく、この20年間というタイム・スパンで見れば、冷戦の終了という世界史的意義ある1989年に劣らない意義ある1年であったのではないか。中東・北アフリカ地域に生起した「アラブの春」という民主主義革命は、チュニジア、リビア、エジプトにおける専制・独裁体制の終焉をもたらし、イエメンにおけるサレハ大統領の退場も不可避となっており、シリアにおいては、アサド大統領による専制が崩壊の瀬戸際まで追い詰められています。北朝鮮においては、金正日総書記の死去により、金正恩体制に移行しつつありますが、同時に、我々は、この機を少なくとも「チャンスの窓」として活かす外交を展開すべきは当然です。更に、ミヤンマーにおいては、民主化プロセスが大方の予想を上回るほどのペースで着実に前進しております。

 こうした動きをどう理解すべきでしょうか。第一に指摘すべきは、今年1年間世界が目撃したことは、地球上における民主主義空間が着実に拡大したということです。それは未だ全地球を覆うまでには至っていないが、アレクシス・トックビルが喝破した世界政治における「民主化」、「平等化」の契機は、強まりこそすれ弱まることはないということを示しているように思います。

 第二に指摘できることは、これら民主主義革命は、本質は「内発的な」(home-grown)革命であったということです。何よりも、若者が、インターネットという情報通信革命の道具を最大限に活用しつつ、勇気を奮って立ち上がったという強い印象を持ちます。自らの国民に人間としての生きる上で必要な自尊心、尊厳を保障できない専制政治は退場を迫られるということを実証しました。かつて英国は、植民地統治に際し、二つの鉄則を自らに課し、実践したといわれております。一つは、「法治主義」(民主主義ではない)を徹底すること。それは香港統治の成功の公然の秘密でもあります。二つは、「殉職者」を出さないこと。もうお分かりでしょう。チュニジア革命は、「大学を卒業した青年が自らの将来に絶望し、自らの尊厳を自死(殉死)で贖った」ことにより突き動かされました。

 第三に、「アラブの春」革命は、「イスラム主義者」主導の革命ではなく、「世俗主義」を基調にした「民主主義」革命であったということです。但し、来年以降、それぞれに合った民主主義の確立が追求される中、イスラム主義者がどこまでその主張を国政レベルで獲得するか(セキュラリズムとイスラム主義のせめぎ合い)は、全ては、各国がそれぞれに結論を見いだしていくべき課題であり、紆余曲折、時間がかかることは覚悟せねばならないでしょう。(つづく)
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