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2012-03-09 10:01

(連載)オバマ新戦略は「超大国の自殺行為」?(2)

河村 洋  市民運動家
 さらに、アジア経済は自分達だけで勝手に成長することはできない。アジアの繁栄は域外の天然資源供給と輸出市場に強く関わっている。アジアでの急速な工業化と都市化を支えているのは中東からの石油の輸入である。また中東はアジアからヨーロッパに向かうシーレーンでもある。ユーロ圏の金融危機によって、アジア諸国は自分達の経済にとってのヨーロッパ市場の重要性を痛感するようになった。尖閣列島と南沙諸島を守るだけでは中途半端なのである。忘れてはならないのは、アジア諸国の海軍がアメリカおよびNATO諸国とともにソマリア沖の海賊掃討作戦に参加したことである。このことは中東のシーレーンがアジアにとってどれほど重要かを示している。

 中東でのアジア太平洋諸国の利益についてさらに述べたい。日本は、平和憲法に基づくフリーライダー外交をいまだに信じ込んでやまない左翼教条主義者の猛烈な反対を押し切って、バース党体制崩壊後のイラクの復興のために自衛隊を現地に派遣した。オバマ政権の新戦略に「超大国の自殺行為」の懸念があるにもかかわらず、オーストラリアのジュリア・ギラード首相がそれを大歓迎した理由が、私にはわからない。オーストラリアは太平洋国家であるとともにインド洋国家であって、アフガニスタンとイラクには主権国家として米英軍支援に出兵した。これは第一次世界大戦で大英帝国の忠実な自治領としてエジプト、パレスチナ、メソポタミアに出兵したこととは全く異なる。現在のオーストラリアがアフガニスタンとイラクへの出兵を決断したのは、それが自国にとって重要な国益だからである。そうして見ると、ギラード首相が「アジア回帰」をあれほど喜々として受け容れたことは不可解である。

 国防支出の削減によって、特にF35統合打撃戦闘機に関して、同盟国にも予期せぬ負担がかかるようになった。オバマ政権がF35の受注を削減したために、一機当たりの価格は跳ね上がるとともに、この戦闘機の開発もさらに遅れるようになった。よってアジア諸国民は新戦略の背後にある現実を考える必要がある。F35戦闘機の問題は、オバマ政権による「超大国の自殺行為」がもたらす致命的な影響を示している。アジア諸国は本当に「アジア回帰」を歓迎すべきなのだろうか? もちろん、中国が、アメリカの優位と地域安全保障に対して、死命を制する挑戦を突き付けていることに異論はない。オバマ新戦略の何から何まで反対というわけではない。カート・キャンベル国務次官補が主張するように、中国の海洋進出に対抗するために北東アジア、東南アジア、オーストラリア、そしてインドでの安全保障の取り組みが互いによくかみ合うようにすることには賛成である。

 先のグローバル・フォーラム主催の「日米中対話」で、村田教授が私の質問への返答で述べたように、パックス・アメリカーナへの第一の挑戦相手は中国であろう。問題は、この対話でEU東京代表部のアレクサンダー・マクラクラン第一審議官が評したように、アジア諸国がアメリカとの安全保障パートナーシップであまりに受動的なことである。私なりにそうした例をいくつか挙げてみたい。沖縄の人々は普天間米軍基地問題でNIMBY(not in my backyard) な希望を表明しているが、日本の政策形成者達と一般国民は米軍には自国周辺に居てもらいたいというYIMBY(Yes, in my backyard)な姿勢で、世界規模のテロとの戦いにも中東の安全保障にも 充分な関心を向けていない。インドネシア国民も同様に、中東のイスラム教徒の同朋よりも、近隣諸国のことで精一杯である。(つづく)
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