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2012-03-31 11:56

(連載)「Kony 2012」への拒絶を考える(4)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 第二に第一の論点に関連するところがあるのですが、物事をあまりに綺麗に色分けしているところが、現地の人たちの反感を買ったと考えられます。子どもが誘拐され、兵士や性奴隷として搾取される。その過程で多くの人間が殺され、手足を切断され、死体をばらまかれる。言うまでもなく、そのような状況を見過すことは許されないでしょう。「Kony 2012」の製作者たちが訴えていたように、域外の国は自分たちの利害に関わらないところには関与しないわけで、それがこの状況を延命させている側面も否定できません。ただし、そのような悲惨な状態を告発することと、「子ども=被害者」「コニー=極悪人」という単純な色分けでストーリーを展開させることは、話が別です。

 少年兵の問題で特に深刻なのは、子どもが被害者であると同時に加害者になる点です。つまり、近親者を殺されてさらわれた点で彼らは被害者ですが、ゲリラ組織で訓練を受け、やがてかつて自分が受けた被害を他者に及ぼすことになるのです。製作者たちはもちろん、そのことをよく知っているでしょう。しかし、この問題を全く知らない人に知らせるという目的のためか、少なくとも映像からは「子どもの二面性」についての言及はほとんどなかったように思います。ポスト・コンフリクトの社会では、このような矛盾と日々向き合いながら、それでも現実と折り合いをつけて生きていかざるを得ません。

 同じことは、コニー司令官やLRAについても言えます。ウガンダでは独立以来、クーデタが相次ぎ、軍事政権に抵抗するゲリラ組織もいくつか生まれました。このうち、国民抵抗軍(NRA)を率いたヨウェリ・ムセベニが1986年に実権を掌握し、ウガンダはNRAが国民抵抗運動(NRM)と改称した一党制国家となりました。現在、北部を除いてウガンダは全体的に治安が回復し、経済活動も活発です。その意味で、ムセベニのNRMはウガンダにとっての利益をもたらしたといえます。しかし、NRA/NRMはLRAとの戦闘を続ける過程で、程度の差はあれ、やはりLRAと同様に少年兵を利用し、市民への虐殺行為を行いました。治安回復と経済復興の恩恵を受けながらも、ウガンダの人たちは、これを忘れていないでしょう。これもやはり、ポスト・コンフリクトの社会が抱える矛盾なのです。

 これらの矛盾を全て捨象して、「子どもは被害者」「コニーさえいなくなればいい」といった主旨の、極めて単純なキャンペーンで自分たちの国のことを語られることが、ウガンダの人たちの反発を招いたことは、後知恵ですが、当然といえば当然の帰結です。まして、製作者が4-5歳になった自分の子どもに、その顔写真をみせて、コニーを「悪人」と教え込むシーンには、私も首を傾げざるを得ませんでした。コニー司令官やLRAを擁護することは全くできませんし、その気も全くありません。しかし、人間社会というものは、定規で引いたように綺麗に割り切れるものではなく、色んな矛盾を抱え込んだ、いびつな物です。もちろん、それを綺麗にしていく努力は必要でしょうが、それは目に付く異分子を排除すれば済むというものではないはずです。それでは、神権政治の樹立を掲げるLRAと同レベルであるだけでなく、さっきの「子どもの二面性」も、「NRMの二面性」も、あるいはその現実の中で生きていかざるをえないウガンダの人たちの苦悩も、全く素通りすることになります。「真の現状を描いていない」と言われたことも、これまた当然ということになります。(つづく)
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