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2012-04-04 09:39

(連載)消費増税より相続資産からの課税強化を(2)

鈴木 亘  学習院大学教授
 そして何よりも「消費税は社会保障財源に適している」「だから、消費税を社会保障目的税とすべき」という野田政権の主張自体、世界中で日本の財務省だけが唱えている「屁理屈」である。だいたい、他国で消費税を社会保障目的税にした前例は無い。純粋な経済学のアカデミックな世界でも、このような主張を支持する理論など無いのである。非常識とさえいえる。第一に、財務省は、消費税は景気が悪化しても税収が減らないので、社会保障の安定財源として適していると言う。しかし、これは裏を返せばいくら景気が良くなって、経済成長をしても税収が大して増えないと言うことだ。一方で社会保障費は高齢化に伴って急上昇しているから、消費税を今回引き上げても、すぐに財源が追いつかなくなる。

 つまり、消費税は「社会保障目的の安定財源」とは全く言えないのである。むしろ高齢化によって死亡者が増え、自動的に増える相続資産からの課税の方がよほど安定財源である。また、高齢化というのは貯蓄を蓄えた高齢者が多くなるので、フローの所得よりも資産というストックの比重が増す社会である。したがって、固定資産税や金融資産に対する資産課税をする方がよほど安定財源である。

 第二に、消費税は高齢者も負担するから世代間格差が是正されると言う。これは嘘ではないがその効果は微々たるものだ。確かに消費税を引上げれば、社会保障等で「受け取り得」となっている現在の高齢者世代も多少の負担をすることになる。しかし、「支払い損」をしている現在の若者世代も、実は将来、彼らが高齢者になれば、やはり追加的な消費税を支払わされるのである。若者世代も生涯のベースで考えれば負担減とはならない。

 第三に、消費税は、所得税や保険料等のように賃金から徴収する税(賃金所得税)に比べて、労働供給を減らすような「価格の歪み(ディストーション)」を生じないので、税率引き上げの副作用が少なく、したがって成長率にあまり害をもたらさない等とも言われることもある。しかし、理論的には一般消費税と賃金所得税は全く同じ効果を持つことが知られている。これを、一般消費税と労働(賃金)所得税の等価命題(同値性)と言う。これは、常識的に考えてみれば当たり前のことである。賃金から税を源泉徴収されなくても、いずれその所得を支出した時に税を取られることが分かっていれば、働く気も失せるというものである。生涯のベースでは、消費税も賃金所得税も同じ効果を持つのである。(つづく)
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