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2012-04-17 10:08

手におえない野田政権の危機管理感覚

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 世界に北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射の情報が駆け巡る中で、わが首相官邸は「一部報道によると何らかの飛翔体が発射された模様だが、確認されていない」。そして、爆発映像が流れた後は「何らかの爆発的事象があった」と涼しい顔で藤村官房長官や田中防衛相がコメントした。なんともはや、緊張感のかけらもないわが国の政権の対応である。北朝鮮の「衛星打ち上げ」の予告があってから、国連を舞台に主要国の緊迫した動きが連日伝えられてきた。ミサイルが軌道を離れて落下する事態に備え、沖縄・石垣島に配備されたPAC3は本番に備えて繰り返し訓練したし、防衛省のある都内をはじめ首都圏の主要自衛隊基地には、万一に備えた物々しい迎撃態勢を敷いた。

 北朝鮮のミサイル発射技術の弱さを浮き彫りにするように、ミサイルは発射から2分後には爆発、破片となって黄海に落下した。外国人記者団を招いて仰々しく打ち上げの「成果」を誇るはずだった金正恩体制には大きな痛手となったが、この失敗は測らずも日本の危機管理のお粗末さをまたもさらけ出してしまった。冒頭に記したように、いち早くミサイル発射をキャッチ、日本に通報した米軍の早期警戒衛星(SEW)の情報は「日本側の確認はまだ」と脇に置かれ、最初の米軍の連絡からほぼ1時間後の午前8時42分になってようやく「確認」にたどり着いた。野田政権の危機管理にとって、世界最先端の米軍のSEW情報も単なる「一つの情報」に過ぎないようだ。日本側情報とのダブルチェックをしたからだと官房長官は言い訳するが、待ったなしの対応を求められる危機管理とは雲泥の差の危機意識と言わざるをえない。

 政権は今回の情報の遅れを検証するチームを発足させる。「そう時間も取れないので、2週間程度で検証結果をまとめる」と官房長官は言うが、情報処理の稚拙さ、遅れの原因は極めて明白だ。政権に危機管理意識がないことと、情報収集・分析の機関を担う情報担当官僚らを政権が十分遣いきれていないことに尽きる。検証に2週間も要らない、数日もあれば立派な検証結果をまとめられる。今回の情報処理のまずさと対応の遅れは、野田政権の危機管理能力がいかなるものであるかを浮き彫りにした。世界の情報機関、インテリジェンスに関わる専門家の間では物笑いになっていると知るべきだろう。

 もう一つ、忘れてならないことを思い出した。原発事故対応の議事録がまったく作成されていなかった、例の驚くべき政権のずさんな事故対応の詳細な議事録作成はどうなっているのだろう。先に政権がまとめたものは形だけで、具体的な中身はないに等しい。閣僚の、専門家の誰々が「こう言った」などは全くない。政権が事故対応にどう動いたかも分からない報告では、今後の教訓になりえない。改めて野田政権の危機管理能力を問わねばならない。
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