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2012-05-13 02:11

オバマ大統領とミット・ロムニー氏の政策比較

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 オバマ大統領が公式に選挙運動の開始を宣言して約2週間が経過した今日、大統領選挙に向けて、共和党大統領候補に確定したミット・ロムニー氏との激しい攻防戦が本格化している。5月10日、『AP通信』は、経済、医療、教育、社会問題、資源と環境、テロリズム、戦争に関する両者の政策の共通点や相違点を明確にした。まず、経済政策面では、昨年から議論が続いている米国の負債は既に負債限度に達しているが、債務不履行を防ぐためその限度額を更に増大するか否かについては、オバマ大統領は肯定的であり、ロムニー氏は明白にしていないが、安定した予算を望んでいる。税金に関しては、大統領はブッシュ時代の永久減税を廃止し、年間収入250,000ドル以上の世帯を対象にした課税を提案している。また、ブッシュ時代のウオール・ストリートの金融業界や自動車産業の救済を肯定している。ロムニー氏は、減税、規制緩和を支持し、金融機関の規制と消費者保護を定めたドット・フランク法案(Dodd-Frank Bill)に反対している。2008年の「金融機関の救済は必要な手段だった」としているが、自動車産業の救済には反対した。次ぎに社会保障については、大統領は2011年の予算交渉で、インフレーションに対応する新たなシステムを提案しているが、民営化は要求していない。ロムニー氏は、現在55歳以上の国民には現状を保持し、次世代は、退職年齢を引き上げることで、社会保障受給資格年齢をあげることを提案している。医療保険に関しては、オバマ氏はユニバーサル・ヘルスケアの制定に一貫した姿勢を貫いている。ロムニー氏は、自州で制定したユニバーサル・ヘルスケアとオバマ氏の医療保険法は同類であるが、連邦政府には不適切として廃止を主張している。

 教育に関しては、オバマ氏は、ブッシュ時代の「一人も遅れた子供を出さない法案」(No Child Left Behind Law) は厳しい規定が伴うため、その規定の緩和を支持している。また、学生のいる低収入の家庭に教育税控除を提案し、学費を急激に上げる大学には連邦政府の援助を削減することに議会の同意を求めている。ロムニー氏は基本的にNCLBLを支持し、連邦政府の教育への干渉を否定。次ぎに移民法に関しては、オバマ氏は、移民法の改正には成功していない。不法移民に市民権、教育、軍入隊の機会を与える政策は現在でも支持している。しかし、オバマ政権下で、年間40万人の不法移民が過去3年間で強制送還されている。ロムニー氏は、不法移民には厳しく、メキシコと米国の国境にフェンス強化を要求し、オバマ氏の上記の移民政策には反対である。むしろ、移民の合法性を明白化し、不法移民の罰則を奨励している。妊娠中絶と避妊に関しては、オバマ氏は支持し、医療改革法案は働く女性に無料で避妊薬〔錠剤〕を与えることになっている。ロムニー氏は、以前、このような女性の問題に関して肯定的であったが、現在、「ロー対ウェイド決定は、最高裁で改正されるべき」だと主張している。また同性間の結婚に関しては、大統領は9日、歴史上初めて支持を公的に表明した。一方、ロムニー氏は、同姓間の結婚は非合法と考えており、結婚は1組の男女間を定義することを支持している。

 エネルギーと環境問題に関し、大統領は、総体的には更なる石油とガスの掘削を支持し、環境団体が反対する北極海の掘削も認めている。また、クリーン・エネルギーには経費をかけ、原発もその源泉として支持している。ロムニー氏も、大西洋、太平洋、西部陸地、更に、北極野生生物国家保護区、アラスカ沖合いでの掘削を支持している。また、石炭、天然ガス、原発エネルギーの開発、安全な地域での掘削加速を奨励している。気候変動の原因はまだ未知であるとし、二酸化炭素を公害のリストから外すことを主張している。国内排出権取引は、エネルギーの値段を急増させると主張。テロリズムに関して、大統領は、ブッシユ時代の厳しい尋問テクニックの継続的使用を拒否する一方で、拘留者を軍事裁判にかけることや、パキスタンやイエメンで無人爆撃飛行機の使用を拡大し、ブッシュ時代のテロ政策を強化している。ロムニー氏は、論争的となった水責を拷問とは考えず、テロリズムの容疑者には憲法の権利はないと思っているようだ。戦争に関しては、アフガンからの撤退を2014年度末までに終わらせるオバマ氏の方針に変更はない。ロムニー氏は、2016年にペンタゴンの予算をほぼ1000億ドル上げることで、軍隊の強化、兵力や軍艦数の増大を提唱している。

 結論として、オバマ大統領は中産階級および大衆を意識した経済政策を目指し、ロムニー氏はオバマ大統領も指摘したとおり、「ウォール・ストリート寄りの候補者」であり、大金持ちを優遇する経済政策を目指している。前者は学生、女性、マイノリティに支持率が高く、後者は逆にこれらのグループに人気がない点が顕著である。ロムニー氏がオバマ氏に大差をつけるためには、女性の労働人口が歴史上最大率に達している今日、女性の支持者を増やす必要がある。その為には、2009年にオバマ大統領が署名した「公平給与法案」に同意することが必然となる。しかし、多くの共和党議員がこの法案に反対し、ウィスコン州の知事スコット・ウォーカは既に廃止している。また、歴史的に長い論議が続いている避妊禁止に関しては、マサチューセッツ知事時代は、選択の自由を支持していたが、最近では、宗教団体の抵抗を懸念し、その立場を変えている。更に、大統領の同姓間結婚の支持表明には、熱心な黒人キリスト教信者の支持を失う可能性も指摘されている。最近、多数の大手メディア、調査専門組織、およびシンクタンク・グループが調査した両氏の支持率に関する世論調査結果を筆者のブログ(https://shimamyuko.wordpress.com)に掲載し、更新しているが、最新の平均支持率は、オバマ氏が46%前後、ロムニー氏が45%前後で、きわどい勝負を示唆している。このような一因として、両氏どちらが米国の経済回復に望ましい仕事をするか国民の判断が二分していることを示唆している。 
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