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2012-06-26 00:06

(連載)シリア問題の外交的解決は可能か(2)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 もちろん、ロシアが万事を「内政問題」として扱い、アサド政権を擁護し続けることで、結果的にシリアの惨状を解決することを妨げていることは確かです。しかし、いずれにしても、「虐殺は反体制派がやったこと」というアサド政権の主張を支持するロシアは、余程のことがない限り、安保理で制裁決議が行われたとしても、拒否権を発動すると思われます。やはり内政への関与に神経を尖らせる中国も、これに同調するものとみられます。

 一方で、欧米諸国も軍事介入には消極的です。それはロシアや中国、さらにシリアと友好関係にあるイランとの緊張の高まりに対する懸念だけでなく、自らの台所事情によるところもあります。失業率が再び悪化するなかで大統領選挙を目前に控えたアメリカは、クリントン長官が介入の可能性を再三否定しています。世論調査でも、アメリカ国民の約6割がシリアへの介入に反対しています。前政権からの懸案であるイラクやアフガニスタン、さらにパキスタンでの軍事活動に一定の目処をつけたことを選挙でアピールしたいオバマ大統領にとって、このタイミングでの軍事介入は、財政的、国内政治的に負担が大き過ぎると言えるでしょう。

 ヨーロッパ諸国にしても、信用不安の連鎖反応に直面するなか、アメリカ抜きで介入に臨むことには、リスクが大き過ぎます。また、そのリスクを敢えて取るには、石油資源などの面で、シリアにはリビアほどの魅力がありません。こうして、ほとんどの国が介入に慎重になっている状況は、しかし、アサド政権の保護者たるロシアにとって、必ずしも心地良い状態ではありません。

 虐殺を生き延びた人がほとんどいないため、その全容が解明されているわけではありません。従って、「虐殺は体制派によるもの」という国連報告を現段階で100パーセント信用することは困難です。しかし、それを斟酌したとしても、この混乱と惨状の最終責任が最高権力者にあることは間違いなく、仮に虐殺に加担してなかったとしても、多くの国民を守れていない時点で、アサド大統領の責任は免れません。それを支持し続けることは、ロシアにとって非難の矢面に立ち続けることを意味します。一方で、自らが拒否権を発動してまで庇護するなかで、アサド政権が停戦合意を順守しない状況は、ロシアからみれば、シリアがロシアの庇護にあぐらをかいているように映るでしょう。言い換えれば、後見役として「庇わざるを得ない」自国をシリアが振り回している、とロシア政府が捉えたとしても、不思議ではないのです。(つづく)
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