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2012-06-26 18:05

(連載)プーチン訪中に見る中露の複雑な関係(1)

袴田 茂樹  新潟県立大学教授
 ロシアのプーチン大統領が6月5日から3日間、上海協力機構(SCO)首脳会談に合わせて北京を訪問し、中露間の親密な関係を世界にアピールした。その直前の仏・独訪問が、素っ気ない実務的な雰囲気で、ビザ問題などで厳しい応酬があっただけに、中露の親密度が浮き彫りになった。著者が特に注目したのは、SCOを主導する両国が、米国やNATOへの対抗姿勢を明確にしたことだ。シリアやイランへの対応でも、中露が主導するSCO諸国は欧米と一線を画した。米国の同盟国であるわが国にとって、このことは軽視できない戦略的な重要性がある。日本は真剣な対応が必要だ。このことを前提にしつつ、本稿は、表面的には親密な関係の背後にある中露間の摩擦や対立に焦点を当てたい。これは、マスメディアが十分には注目していない側面だ。中露は見かけほど一枚岩ではなく、激しい競合関係や不信関係にある。この認識は当然、これからの日本の対ロシア政策にも影響する。

 まず経済面について、中露両国首脳の声明によると、中露の経済関係が過去最高のレベルに達した。貿易額は、2011年の実績が835億ドル。これが2015年には1000億ドル、2020年には2000億ドルに達するとアピールした。ロシアは極東、シベリアの経済開発においても、中国経済の潜在力を活用する方針。エネルギー、原子力、科学技術やハイテクなどの諸分野において、様々な協力を行うとうたった。資源を戦略的に利用する考えのロシアは、SCO諸国のエネルギー・ネットワーク構築を念頭に、「エネルギー・クラブ」の設立を提唱した。国際政治面では、ほとんどの問題に関して、中露の立場が共通であることを強調した。例えば、両国はシリア、イランに対する武力干渉や、体制転覆を目論む内政干渉、制裁の強化を批判している。6月8~14日にはタジキスタンで、SCO合同軍事演習「平和の使命2012」を2年ぶりに実施した。

 中露は実は、米国とNATO軍がアフガニスタンから2014年に撤退することに対して、危機意識を共有している。米国やNATOの影響力拡大に対して中露が抵抗していることを考えると奇妙に見えるかもしれない。しかし、米軍などが撤退すると、アフガニスタンのイスラム過激派が再び勢力を拡大する可能性がある。その結果、中国やロシア、CIS(独立国家共同体)諸国内で同過激派が台頭して、「アラブの春」的状況が中央アジアで生まれる懸念がある。麻薬の密売が大幅に増えることへの懸念もある。今回のSCO首脳会議では、テロリズムや過激主義、分離主義に協力して対応するとうたっている。念頭にあるのは2014年問題である。

 また、中露は、今日の国際秩序は欧米が既得権益を持ち、IMFその他の国際組織において中露は差別されているとの被害者意識も共有している。これら側面を見ると、欧米と中露の対立、かつての中露蜜月時代の再来かとの印象を受ける。しかし、SCO内での中露関係を立ち入って見ると、その様相は「これまでにない高い信頼関係」という公式声明とは大きく異なる。つまり、経済関係や国際的影響力をめぐる中露の激しい競争関係や不信関係が浮き彫りになる。(つづく)
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