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2012-06-28 00:01

(連載)プーチン訪中に見る中露の複雑な関係(3)

袴田 茂樹  新潟県立大学教授
 もう一つの対立要因であるSCOのメンバー国拡大の問題について、別のロシア紙『独立新聞』の6月8日号は、「ラブロフ外相はSCOオブザーバー国のインドとパキスタンをメンバー国にしようといろいろ努力したが、中国はそれを支持しなかった」と報じた。米国との対立関係が深まっているパキスタンは、SCOのメンバーになることで国際的立場を強めようとした。しかし、親密な関係の中国が反対したことにショックを受けた。中国の新華社は、プーチン大統領が北京に到着した6月5日付けのロシア語版評論で、「SCOの魅力は増している。オブザーバー国や対話パートナー国などの地位が今後問題にされるだろう。しかしSCOの範囲は中央アジアを中心にすべきだ。拡大のための拡大であってはならない。際限のない拡大は、組織の行動力を弱めるからである」と主張した。明らかにロシアへの牽制球だ。

 これに対してラブロフ外相は、『独立新聞』の6月7日号によれば「インド、パキスタンが正式メンバーになり新鮮な血が入ると、SCOの潜在力を強め、その国際的権威を高める」と、正反対の主張をした。また、オブザーバー国なども参加したSCOの拡大会議で、『イタル・タス』の6月7日号によれば、プーチン大統領は「SCOは開かれた組織であり、多くの国との協力を歓迎する。地域の反テロ活動に、オブザーバー国や対話パートナー国も最大限参加させなくてはならない。キルギスで来年開かれる予定の会議までに、新たなメンバー受け入れのための諸条件を研究し、準備するよう、各国の外務省に指令する」と述べた。ロシアは、領土紛争中のインドとパキスタンを同時にメンバー国に推薦した。もちろん、ロシアと良好な関係にある大国インドが、SCO内で中国への抑制力となるのを期待しているのだ。紛争国がメンバーになると、SCOとしての統一や諸決定が難しくなることは目に見えている。したがって、ロシア内にも、無理な拡大には批判がある。しかし、それを承知のうえでロシアが拡大を強く主張するのは、それだけ中国の強大化を恐れていることの証明である。

 6月7日付けの『コメルサント紙』は、この対立について、中国に対する警戒心を「SCO内でのロシアと中国の綱引きは、今後ますます強まる。中国は、伝統的にロシアの影響圏だった中央アジアから、ロシアを徐々に閉め出そうとしている。今日のロシアの勝利も、結局は中国の影響力強化に寄与するだけだ」と、率直に述べている。中国と交流しているロシアの外交官、専門家、学者などが共通して抱く、中国人に対する複雑な気持ちがある。それは、かつては政治的にも科学技術・工業の分野でも中国に対して「兄」の立場にあったロシア人が、現在では中国人から「弟」の扱いを受けている屈辱感だ。つまり、中国人はロシア人に対して、経済面でも工業や技術の面でも優越感を抱き、しばしば尊大な態度をとるというのである。

 以上、中露関係の複雑な諸面を、その心理面も含めて紹介した。これらの点から、次のことを指摘することができる。現在、中露は緊密な関係をアピールしている。だが実際には、両国は、その影響力をめぐって激しい競合関係にある。両国を結びつけているのは、信頼関係というよりも、国際戦略における欧米への対抗意識であり、また経済的な利害である。4月の黄海での共同軍事演習でも、中国は空母を参加させなかった。ロシア艦隊も十分な準備をしているとは言えなかった。青島に到着したのは演習開始の前日。合同司令部も設置せず、相互の独自演習の色彩が強かった。では、日本としてはこのような中露にどう対応すべきか。たとえ政略結婚であったとしても、安全保障や国際戦略の面で中露が共同歩調をとる以上、それを前提にした真剣な戦略的対応が必要だ。ただ、中露が一枚岩だと誤解して、単純化した対応をしてはならない。ロシアは、シベリアや極東において中国が経済的な影響力を拡大するのを恐れ、日本のプレゼンスの拡大を真剣に望んでいる。日本に求められているのは、複眼的な対応である。(おわり)
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