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2012-07-31 14:20

(連載)領土問題は日本の政治家にとって「儀式」にすぎないのか(1)

袴田 茂樹  新潟県立大学教授
 私は、最近の日露関係について「領土問題が日露間の真剣な課題だという認識が、ロシア側にはもはやない。つまり、北方領土問題は今では本気で取り組むべき国際問題ではなくなったと見ている。また、首脳会談の場で日本の首相が常に領土問題を持ち出すのは、それが日本の政治家として避けられない『国内向けの儀式』だからだ、とロシア側は認識している。すなわちロシア側は、日本側ももはや北方領土問題に真剣に取り組んではいないと見ている」との見方をしている。

 ロシアの通信社のドミトリィ・コズィレフ政治評論員が、7月初めのメドベージェフ首相の国後島訪問と関連して、私の見方を裏付ける、つぎのような論説を述べている。「メドベージェフ氏の今回の訪問に対して日本外務省はもちろん抗議したが、この抗議にはどこか儀式めいたところがある。全体として、とりわけ先月のロスカボス(メキシコ)でのG20(主要20カ国・地域首脳会議)で、プーチン大統領と日本の野田佳彦首相がいたって和やかに会談したことを思えば、むしろ(日露関係は)万事順調と言えよう。互いに柔道着を贈り合い、様々な協力問題を話し合っている。日本もロシアも南千島四島を自国のものとみなしていることは、現在、両国関係に脅威を及ぼしていないばかりか、国際問題にすらなっているとは思えない。ロシアと日本がいかに模範的な隣国同士であるかは、近隣のアジアにおける酷似した状況を見ればわかる」。

 最近、プーチン大統領だけでなく、元来北方領土問題では一貫して強硬姿勢を貫いてきたラブロフ外相までが、にこやかに「北方領土問題についても話し合いましょう」と言うようになった。プーチンが3月1日に、日本の新聞社主筆に対して、柔道の「ハジメ」「ヒキワケ」などの言葉を使って、北方領土問題解決に「前向きの姿勢」を示したので、ラブロフまでが対日姿勢を180度変えたのだろうか。

 実は、プーチンやラブロフが日本とのデリケートな領土問題をにこやかに述べる理由は、この政治評論員の言葉にすべて言い尽くされている。領土紛争への模範的な対応として、今後も「儀式」はいくらでも続けましょう、ということである。ロシアがここまで日本を嘲笑的に見くびる理由は、主権問題に対する日本の姿勢が、およそ真剣味を欠き、その点でロシアが対応してきたどの国とも異なるからだ。(つづく)
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