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2012-08-22 01:17

(連載)パワー・シフト時代における米欧同盟の再強化(3)

河村 洋  外交評論家
 これまで述べた観点から、ミット・ロムニー氏がイギリス、イスラエル、ポーランドを訪問したことは注目に値する。それはオバマ政権がこれら主要同盟国との戦略的関係を弱体化させたからである。『ワシントン・タイムズ』紙はこの海外歴訪の直前の7月25日付の記事で「これはロムニー氏が外交に力を入れていることを示す絶好の機会だ」と訴えた。イギリスではデービッド・キャメロン首相、トニー・ブレア氏と中東および世界の安全保障に関して議論し、またイスラエルではパレスチナ問題について、ポーランドではミサイル防衛についてオバマ政権の姿勢に反論するなど予定が目白押しであった。これら3国への歴訪が成功裡に終われば、オバマ政権が弱体化させた西側民主国家同盟の礎が再強化されたはずである。訪英直前のロムニー氏は「英米特別関係には左翼的な冷淡さで臨みながら、アメリカの敵国や競合相手国に宥和姿勢をとっている」とオバマ政権を批判した。

 しかしロムニー氏はほどなくして外交政策には経験も知識も不足しているという馬脚を現してしまった。イギリスではロンドン・オリンピックの準備の進み具合への疑念を口にして滞在先の国民から反感をかった。さらにエド・ミリバンド労働党党首の名前を思い出せないという失態も演じた。またロムニー氏が別の機会に「我が国は日本ではない」といった問題発言をした際には、日米同盟の強化を望む日本国民とジャパン・ウォッチャーから懸念の声が挙がった。

 そのような失言がありながら、ミット・ロムニー氏はコンドリーザ・ライス元国務長官やデービッド・ペトレイアス陸軍大将のような重鎮を差し置いてポール・ライアン下院議員を副大統領候補に選んだ。予算問題に通じるライアン氏はサラ・ペイリン氏よりはるかに優秀ではあろうが、ロムニー氏と同様にライアン氏も外交政策でのバックグラウンドは充分ではない。歴史的に見て、外交政策に強いバックグラウンドがない大統領候補は自らの弱点を補完できる副大統領候補を選んでいる。ロムニー氏がライアン氏を選出したことは「外交政策を選挙の主要争点とは見ていない」と公言したと解釈されかねない。

 オバマ氏は自由民主主義諸国との関係の深化よりも、むしろ体制の如何を問わず新興諸国とのパートナーシップ強化に政策をシフトしつつある。しかし大西洋同盟の弱体化は世界の安全保障のためにならない。ロムニー氏は世界の平和と自由民主主義の礎の再強化への意欲を示したが、自らの失言によって外交でのバックグラウンドの不充分さを露呈させてしまった。アメリカとヨーロッパの同盟は世界の自由、繁栄、文明の推進に最も重要な役割を担ってきた。専制諸国家の台頭に鑑み、アメリカとヨーロッパは再び結束を強める必要がある。現時点では政権与党の民主党も野党の共和党もこの問題に関する認識が不充分である。シカゴの停滞から大西洋同盟を再強化できる人物はいるのだろうか?(おわり)
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