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2012-09-22 10:19

日本人は脅すにかぎる

藤永 剛志  予備役ブルーリボンの会幹事
 ドナルド・ザゴリア米コロンビア大教授から20年ほど前に聞いた話を、最近よく思い出す。当時、たまたま米国を訪問中だったイワン・コワレンコ氏が、米国人多数を前にした会合で、「日本人は卑屈で、力に弱い。脅せば必ず屈する」と発言し、みなを唖然とさせたという話である。コワレンコ氏は、ソ連共産党国際部日本課長として日本人抑留者洗脳工作を指揮し、1976年に来日したときは、札幌で「返せ、北方領土」の看板の撤去を堂垣内北海道知事に「命令」して、拒否されたことでよく知られている。

 これは、昨年2月28日付けの産経新聞「正論」欄に日本国際フォーラムの伊藤憲一理事長が寄せた寄稿文のなかの一節である。日本人として記憶すべきエピソードだと思うので、改めて紹介した。コワレンコは、戦後、シベリア抑留の日本人捕虜向けの『日本新聞』の編集長を務めるなど、日本人捕虜の親ソ化工作を行った。その後も、ソ連共産党国際部副部長として対日政策立案の中心的役割を果たし、対日恫喝外交の信奉者として知られる。この発言の背景には、長年にわたる日本人との肌の接触を通じて形成されたかれの日本人観がある。

 さて、いま近隣諸国はその対日強硬姿勢を次第に露わにしてきているが、これに対する民主党政権の外交が失態続きであることは明らかだ。米国との関係を悪化させ、ロシア首脳の北方領土訪問や中国の尖閣諸島への度重なる干渉を許し、竹島への韓国大統領訪問も阻止できない。拉致問題でも北朝鮮にあしらわれ続けている。近隣諸国は「日本人は脅すにかぎる」というコワレンコの言葉を忠実になぞっているのだ。さらに救いようがないのが、近隣諸国の対日加害行動やこれに対する政府の弱腰に対して、国民の批判が大きな流れにならないことだ。国民のかなりの部分が、未だに「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」まま、憲法の「平和主義」を唱えているだけである。外交の主眼も、いかに「国益を守るか」というよりも、どこからも文句を言ってこない範囲で「お茶をにごす」「波風を立てない」ことにあるようだ。

 哲学者、田中美知太郎氏は著書『今日の政治的関心』の中で、「いわゆる平和憲法だけで平和が保障されるなら、ついでに台風の襲来も、憲法で禁止しておいた方がよかったかも知れない」と述べている。戦後の現実離れした平和主義への痛烈な皮肉である。
これからは、大国同士が戦闘力を直接ぶっつけ合うような戦争の可能性は極めて低く、ほとんどゼロと言っても差支えない。しかし、日本人に「いざとなれば、戦いも辞さない」という気概が希薄で、その物理的な表れである軍事力も脆弱であるとすれば、日本は「戦わずして、屈服させられる」可能性が大きい。バブル崩壊、冷戦崩壊の前までは、日中の軍事力比は、圧倒的に日本が勝り、日本は「やれるものなら、やってみろ」と言うことができた。しかし、いまは、日本政府にも、国民にも「自衛隊を動かすぞ」という意思がないから、それを近隣諸国から見透かされ、自衛隊は「抑止力」としてすらもその効果を発揮できないでいる。20年前のコワレンコの「日本人は脅せば、必ず屈する」という言葉が、迫真性をもって今日のわれわれに迫ってきている。
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