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2012-10-11 09:48

(連載)「リーダーなき世界」でのサバイバル(2)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 この状況下、アメリカの政治学者I.ブレーマー(Ian Bremmer)を皮切りに、欧米諸国では1年ほど前から‘Gゼロ’(G-Zero)の議論が出てきました。アメリカは、かつてのような力を発揮できず、またそれに代わる勢力もない。世界をリードする大国が消滅した、というのです。これまでみてきたような状況に鑑みれば、‘Gゼロ’論には一定の真実が含まれているようにみえます。

 ただし、この‘Gゼロ’論は、取り立てて新しい見方でもありません。15世紀から世界を支配してきた欧米諸国では、その優位が損なわれることへの危機感が定期的に浮上します。第一次世界大戦後に当時の新興勢力アメリカ、ソ連の台頭を背景に、ドイツの歴史学者O.シュペングラーが、1918年と22年に、ヨーロッパ中心史観を批判的に考察して著した『西洋の没落』。1980年代に西欧や日本の追い上げにあい、大規模な貿易赤字を抱え込み、その支配的地位への懐疑が芽生え始めたアメリカで、P.ケネディが1987年に著した『大国の興亡』。いずれも欧米世界の長期的衰亡を指摘したもので、今回の‘Gゼロ’も、「欧米世界の優位の喪失」という認識についてはシュペングラーやケネディを踏襲しており、その意味では近代以降に世界の覇者となった欧米諸国で、動揺の時代に必ずといっていいほど発生する、特有の危機感に基づくものといえるでしょう。

 この「支配的地位の喪失への危機感」を反映して、シュペングラーやケネディに対する欧米諸国内での批判には、ややヒステリカルなものがあったことは確かです。今回の‘Gゼロ’論に対しても、「(特に中国など)他の国がその意思や能力に欠ける以上、アメリカ、EU、日本などの西側諸国が世界をリードする以外にはない」という批判が既に寄せられています。しかし、このタイプの議論は、「それしかない」という価値判断に基づく主張であり、欧米諸国の影響力低下という事実認識を後回しにする傾向が濃厚です。

 もちろん、現在でも経済的に欧米諸国が世界で優位にあることは確かです。科学技術、軍事力、さらに自由や民主主義の普及といった多くの側面で、欧米諸国は他を凌ぎます。しかし、例えば「民主的な社会の方が経済成長に向く、なぜなら国民の要望が政府に反映されやすいから」といった主張を欧米諸国が展開し、開発途上国に民主化を強要しても、急激に経済成長しているのは中国に代表される権威主義的な政府に率いられる国であるように、欧米諸国の理念が通用しない状況が世界に満ちていることもまた、確かなのです。また、「アラブの春」で躍進したのがイスラーム政党であったことは、世俗的な民主主義の普及を前提としていた欧米諸国にとっては「期待はずれ」の結果でした。(つづく)
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