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2012-11-19 06:55

石原、橋下の「野合の合流」は“双頭の蛇”を生んだ 

杉浦 正章  政治評論家
 石原慎太郎の言う「双頭の鷲」は、無敵を意味するローマ皇帝の紋章であり、神聖ローマ帝国からオーストリア帝国へと受け継がれた。ナチス・ドイツもそれにならい、ヒトラーは軍服や建築物の随所に双頭ではないが、鷲の意匠を施した。大阪市長・橋下徹も、石原も、全体主義的な危うい政治手法を志向しているが、その政策は水と油である。それを覆い隠して、ひたすら国政進出を狙って、合流の合意文書に署名した。石原は、憲法破棄、徴兵制導入、原爆保持の持論を表に出さず、隠ぺいした上での国政挑戦である。原発・消費税もあいまいにしたままだ。そこには双頭の鷲の豪快さはなく、政界に進出してから浮上させる狡猾(こうかつ)さだけが目立つ。双頭の鷲は、現実には存在しないが、双頭の蛇は東南アジアではざらに見られる。その陰湿さからいって、合流はむしろおぞましさが先行する双頭の蛇だろう。双頭の蛇は、頭が別々の意思を持って動こうとするため、長くは生きらず、せいぜい数か月の命だ。石原は、いったん決めた減税日本との合流をほごにして、維新に付くという破廉恥極まりない行動も意に介せずだ。何も知らない「維新チルドレン」を大量に選出すれば、その数だけを頼りに、石原の無責任極まりない独断政治が国政へと移行される。その主義から言えば、国政と日本の外交・安保は危機的状態にに陥るだろう。

 いったいなぜ橋下が日本維新の会のトップの座を石原に明け渡したかだ。そもそも橋下は、本来なら先頭に立って立候補すべきところを、立候補せずに、自らは“扇動者”に徹している。代表も石原に譲って、自分は一歩下がった。これが意味するところは、国政への自信のなさだ。強気のようで、弱気が交差する、橋下の国政への姿勢が垣間見られるのだ。事実、烏合(うごう)の衆を数人集めて、政党を結成したが、出だしから主張はかみ合わない。国政のプロが維新の会には必要だが、太陽の党は賞味期限が切れた議員ばかり。ここはヘッドハンティングの必要に駆られていたのだ。「石原代表」では、まず維新のイメージががらりと変わる。維新の“新鮮”さが、石原および太陽の党の「老人ムード」に覆われる。「新鮮から老獪へ」と変身を余儀なくされる。石原の知名度がいくら高くても、その主義・主張の外交・安保論や、官僚支配打破論は、仏壇の中からはたきを掛けて取りだしたような時代錯誤に満ちている。選挙戦を通じてその石原カラーが前面に出ざるを得ない。石原は、首相を目指さないと言っているが、都政13年で裸の王様になり、石もて政界を追われた過去は、全く忘却の彼方だ。

 一定の議席数を取れば、 非自民・非共産連立政権で首相の座を射止めた細川護煕のごとくに、あわよくば政権の座に就こうとしているのだ。橋下に対して石原は、「次回は殴ってでも出馬させる」と、橋下擁立の構えを見せているが、これは石原特有の狡猾なる“たらし込み”だ。まんまと引っかかったのが自分であることを、橋下は知らない。役者が上手であるのだ。したがってこの紛れもない「野合」の結果、橋下は、庇を貸して母屋を取られることになることが明白だ。「野合」は「小異を捨てる」と臆面もなく言い放つ石原の政治感覚がすべてを物語っている。焦点となるべき原発の是非や消費増税問題も、合意文書からは何も方向性をうかがうことが出来ない。首相・野田佳彦が「混ざったらグレーになった」と名言を吐いたが、その通りだ。こうして維新の会は、石原と橋下の知名度だけの選挙を展開することとなった。候補者などはどうでもいいのだ。その辺のあんちゃんでも、何も知らない有象無象でも、橋下と石原が応援に行けば当選すると判断しているのだ。候補者には、演説集でも渡して、棒読みさせれば、当選してくるとでも思っているに違いない。要するに。有権者を「衆愚」ととらえて、知名度だけで勝負に出たのだ。

 自民、民主両党は維新叩きを展開しようとしているが、これは難しい側面がある。なぜなら自らを維新と対等の立場に置いてしまうからだ。それでは、既成の大政党批判票はかえって維新に流れかねない。それよりも党首討論の場などにおいて、石原と橋下の浅薄さを浮き彫りにさせる高等戦術の方が得策ではないか。11月18日付けの読売新聞は、世論調査の結果「第3極失速傾向」と報じているが、果たしてそうなるか。維新と太陽が合流前の調査で断じられるのか。比例選の投票先は、自民が26%、民主が13%で維新が8%と前回の12%から落ちたことが理由だ。しかし。同じ調査で太陽は5%取っており、単純合計では13%ある。朝日新聞の調査でも、自民22%、民主15%なのに対して、維新は6%であり、第3党になり得る流れだ。毎日新聞は、維新が自民の17%に次いで13%となっている。いずれにしても各種調査で40~50%に達する浮動票の行方が鍵を握る。しかし、3年前の総選挙で民主党を勝たせたようなブームは沸くまい。3年前の「衆愚の選択」が国政にもたらした結果を、いくら何でも知的水準の高い日本の有権者は反省しているだろう。石原と橋下らポピュリズムが背広を着て歩いているような政治家に、再びだまされて、維新チルドレンなどを大量に国政に進出させるべきではない。いまほど有権者がガバナビリティを問われている時はないのだ。

 
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