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2013-01-19 16:40

外務省はロシア側の“秘密提案”を明らかにせよ!

飯島 一孝  ジャーナリスト
 北方領土問題をめぐり、ロシア側が1992年3月の日露外相会談で日本側に大幅譲歩の秘密提案を行ったと東郷和彦・元外務省欧亜局長が提案の詳細を証言したことが話題になっている。これまでも断片的には伝えられていたが、これほど詳しい内容が公けにされたのは初めてだ。それ以上に、外務省がこの提案を握りつぶそうとしていたことに驚かざるを得ない。東郷証言はすでに各紙で報道されているが、要点は平和条約の締結を待たず、歯舞、色丹の2島を引き渡すという譲歩をロシア側がしていたことだ。これは日ソ共同宣言(1956年)よりも進んでおり、なおかつ国後、択捉の2島についても返還の可能性を残している。こんな画期的提案を受けたのに、外務省は今日まで一切なかったことにしようとしていたのだ。

 東郷証言の背景については、佐藤優・元外務省主任分析官が16日付けの毎日新聞朝刊「異論反論」で説明している。昨年12月24日付け北海道新聞朝刊に、秘密提案を知っているクナーゼ元ロシア外務次官が事実と異なる話をしたため「事実と違う内容がひとり歩きすると、今後の北方領土交渉に悪影響を与える」と東郷氏から相談を受け、佐藤氏が真実を証言するよう勧めたのだという。この秘密提案については筆者も問題の日露外相会談出席者に取材したことがあるが、「コズイレフ外相の個人的な考えで、きちんとした提案とは思っていない」「外務省は当時、四島返還を主張しており、ロシア側提案は検討に値しなかった」などと発言、“問題外”との態度をとっていた。しかも、そんな重要な提案だったのに、記録は残っていない、などと曖昧にしていた。ところが、佐藤氏の話では日本側の通訳が作成した手書きの記録が今も外務省ロシア課に残っているという。

 秘密提案が行われた92年3月は、ソ連が崩壊、エリツィン政権が発足した直後で、ロシアは市場経済に移行したものの、ハイパーインフレで大混乱が起きている最中だった。当時筆者はモスクワにいたが、餓死者が大量に出るとの見方もあり、ロシアにとっては最悪の状態だった。そのため日本側には「ロシアは待っていればもっと譲歩してくる」との見方もあったと聞く。そういう状況下だけに、日本にとっては領土問題解決の千載一遇のチャンスだったと言える。そのチャンスをみすみす逃した責任は第一に外務省にあり、さらにはそれを放置した日本政府にもある。この際、外務省、日本政府はこの間の経過を明らかにし、きちんと国民に説明するべきではないか。

 日本政府はこれまで重要な外交問題については一貫して秘密主義をとっており、外交文書も公開していない。とりわけ領土交渉については一切を封印したままだ。安倍政権が北方領土交渉に本腰を入れて臨むというのなら、まず重要な事柄をきちんと国民に公表すべきだろう。
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