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2013-06-01 11:54

(連載)日露首脳会議をめぐる3つの問題点(1)

袴田 茂樹  日本国際フォーラム「対露政策を考える会」座長
 4月に10年ぶりの公式的な日露首脳会談がモスクワで行われた。首脳会談の報道やそれに関係した政府指導者の発言に関し、3つの問題点を感じたので率直に述べたい。4月29日の安倍首相とプーチン大統領の首脳会談の後、わが国ではプーチンがロシアと中国とノルウェーとの領土問題解決を引き合いに、面積折半論に触れたとの報道が一斉になされた。ただ、プーチンは中国やノルウェーとの間の問題は、第2次世界大戦とは関係ない話だとして、北方領土問題は別だという認識も示した、との報道もなされた。この状況の中で、昨年「引き分け」とか「妥協」について述べたプーチンが、ついに北方領土問題でも面積折半を示唆したといった誤解がわが国に広がった。これを誤解というのは、今日のロシア国内の政治状況やプーチンの不安定な立場を前提にすれば、北方領土問題で折半論をプーチンが示唆するということは絶対あり得ないからだ。

 もちろんこれは、私が4島返還の立場に立っているから、折半論を否定しているというのではない。つまり、折半による解決の可能性が生じているのに、折半で妥協すべきではないとして、それを否定しているのではない。率直に言って、純粋に中立的な立場から日露外交を判断するとすれば、もし現在ロシアが北方領土に折半に応じたとしたら、日本外交の大勝利と言ってもよいだろう。しかしプーチンがそのような提案をするなど、現実にはあり得ないことなのである。2島返還でさえも、現在では非現実的である。折半論がこうして一斉に報じられたため、安倍首相はモスクワのあと訪問したサウジアラビアで5月1日に、プーチンの面積折半論への言及に関して「そのような発言はなかった」と否定した。私は、わが国の政治家やマスコミ、世論が、ロシアの現実をまったく無視した楽天な幻想に踊っていることに、強い懸念を抱いている。「馬の前の人参」で走らされているからだ。

 私がきわめて深刻な問題だと考えていることがある。首脳会談においては、双方の関係者がそれぞれ相当数参加する会談とは別に、少人数に限った会談、つまり会談内容を外に出さないことを前提にした本音の会談が極めて重要だ。とくに世論を刺激する領土問題などについては、両国の最高首脳が本音で意見交換をすることが不可欠となる。しかし、今回の首脳会談では、少人数の会談についても、すぐその会談内容が日本側の関係者によってマスコミに漏らされた。その内容の正否は不明だが、今回の場合は先に触れたプーチンの「折半論」についてマスコミが一斉に取り上げ、すぐその後に首相が「そのような発言はなかった」とそれを否定した。これは日本外交の醜態である。以前、クラスノヤルスクにおける日露首脳会談(1997年11月)の直後に、ロシアのプリマコフ外相(当時)と個人的に話したことがある。その時彼は、日本とノーネクタイ会談つまり非公開のプライベート会談を行っても、その内容がすぐに漏れてしまう。これでは会談を行う意味がない、と嘆いていた。

 今回の日露首脳会談では、安倍・プーチンの非公開会談について、ある新聞はまるで記者がその場にいたかのごとく両首脳の話しぶりまで生々しく伝える「臨場感あふれる」報道をした。記者の創作ではないとしたら、誰か関係者がおそらく「オフレコ」と称してヒントを与えたのであろう。意図的なマスコミ操作だったのか、あるいはその関係者が最高機密に関わる立場であることを誇示したかったのか、いずれにせよ非公開の首脳会談でこのような報道がなされること自体、ナンセンスである。もちろんロシア側が、日本ではすぐ内容が漏れることを承知の上で、あえて日本世論を操作するための「高等戦術」に出た可能性もある。その場合は、日本側がまんまと引っ掛かったということになる。いずれにせよ、非公開の首脳会談の内容がすぐ外に漏れる状況であるならば、領土問題について真剣勝負で交渉できるのは、まだまだ何年も先のことと言わざるを得ない。(つづく)

 
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