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2013-06-16 18:23

自民党「安全保障基本法案」に欠けているもの

桜井宏之  軍事問題研究会代表
 石破自民党幹事長は4月10日、内外情勢調査会で講演し、夏の参院選後の課題として、憲法を改正しなくても集団的自衛権の一部行使を可能にする国家安全保障基本法の制定に優先的に取り組む考えを示しました(http://www.jiji.com/jc/zc?k=201304/2013041000779)。既に自民党は昨年の衆議院選挙前に「国家安全保障基本法案(概要)」(以下「自民党案」)を取りまとめており、いつでも法案として国会に提出することが可能です。自民党案に関しては、集団的自衛権の問題ばかりに注目が集まり、全体についての論評を目にすることがありません。また、自民党以外の政党が同様の法案を提示していないため、自民党案を比較検証する手がかりに乏しいのですが、実は防衛省も安全保障基本法の試案を過去にとりまとめており、これと比して自民党案に欠落している点を指摘したいと思います。

 防衛省試案は「安全保障基本法について(報告書全文)」(1994年4月13日 検討チーム)とのタイトルで、筆者の情報公開請求に対して同省が以前開示したものです。防衛省試案によれば、これが作られた背景には、自衛隊違憲論の社会党が細川連立政権に参加して自衛隊を取り巻く政治状況が一変したことと、読売新聞憲法問題調査会、『世界』(岩波書店)系革新学者グループ、また与野党の一部においても左右を問わず、それぞれの立場から安全保障基本法の制定が提唱されたこと、がありました。こうした情勢を受けて防衛省(当時は防衛庁ですが本稿では「省」で統一)は、将来における「安全保障基本法」制定論議における同省としての基本的スタンスの形成や対応策の準備に資するため、内部で検討チームを設け、試案を作成したとのことです。

 両案を比較すると、防衛省試案にはある国民の安全に関わる条項が、自民党案には欠落している点が注目されます。防衛省試案には、国民の安全に関する条項として以下の2つの条項が盛り込まれています。
第12条(国民の生命等を守る施策)
 国及び地方公共団体は、我が国に対する侵略に際し、国民の生命身体及び財産の保護を図るため、平素から防災、救護、避難等の体制の確保その他必要な施策を講じておく。
第13条(国民生活の維持のための施策)
 国は、我が国に対する侵略事態又は緊急事態に際し、国民生活を維持するため必要とされる食糧、資源その他の物資について、平素から備蓄しておく。

 自民党案では、既に国民保護法(「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」)が存在するため、基本法に盛り込む必要はないという立法技術の観点から、こうした条項が加えられなかったのかもしれません。しかしながら、安全保障において守るべきものが、「国民(その生命、自由、財産)」(防衛省試案17頁)であるのならば、基本法に真っ先に盛り込まれるべきは、国民の安全に関する条項ではないでしょうか。基本法を巡る「哲学」の観点から考えると、自民党案にこうした条項が欠落している意味は小さくないと思われます。
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