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2013-06-25 11:06

(連載)アベノミクス第3の矢は、なぜ「竹やり」か(2)

鈴木  亘  学習院大学教授
 私自身、前回の安倍政権末期から麻生政権まで規制改革会議の専門委員を務めており、今回も、規制改革会議の大田弘子議長代理に請われて、途中から規制改革会議「保育チーム」のメンバーとして、目玉である「待機児童対策」の立案に携わった。まさに、前回と今回の自公政権における規制改革会議の官僚支配の違いを肌で感じる立場にあったので、少しご紹介をしたい。就任して、まず驚いたことは、前回の自公政権時には、規制改革会議の事務局の大半が、民間からの出向者で占められていたのに対して、今回はものの見事に霞が関の官僚ばかりであったことである(途中から、経済同友会、日本経団連から2、3人の出向者が来たようであるが、多勢に無勢の上、新参者が来る前に勝負が決しており、既に後の祭りであった)。

 例え、規制改革に反対する官庁からの出向者が事務局の直接の担当者でなくても、霞が関の官僚同士は、直ぐに裏で手を握る。規制改革会議はあくまで一時的な出向にすぎず、この先、長く霞が関ムラで生きて行く官僚にとっては、相手官庁とつるむ方が合理的である。また、相手官庁の官僚の方が個別テーマに詳しいから、その道の専門知識のない委員達が、事務局に安易に「調べておいてね」等と言うと、相手官庁に相談したり、教えを乞うなどして、簡単に借りを作る。しかし、こうした官僚の行動原理は自明のことであるから、前回の規制改革会議では、利害が各官庁と一致しない民間会社からの出向者を大勢入れ、事務局の官僚達を牽制していたのである。出向者の多くは、規制改革会議の議長の出身会社からの出向や(これは、本当のエースたちが大勢やってきた)、委員達の出身組織からの出向であるから、規制改革会議の委員とはいわば一心同体である。もちろん、事務局に官僚が全くいないと、相手官庁とのやりとりなど、会議の運営に支障がでるので、官僚の存在は不可欠であるが、問題はその割合である。

 今回のように官僚ばかりの事務局では、官僚のやりたい放題になることは火を見るより明らかである。私自身も、前回から考えると「まさか!」と思うようなあからさまな事態に数多く遭遇した。一例を言うと、まず、(1)保育チームの委員間でまとまったはずの重要な規制改革項目が、事務局の判断で勝手に削除されてしまう(その理由を問うと、言い分は厚労省と瓜二つであり、情報源は明らか)、(2)反論してその項目の復活をさせても、手を変え品を変え、バージョンが変わるごとにしつこく何度も削除してきて、持久戦に持ち込まれる(こちらも忙しいので、油断して何度目かのバージョンをスルーするすると、その削除案で決まってしまう)。(3)さらに公表を前提に、規制改革会議で発表するために入れておいた資料が当日の配布資料から消えている、(4)次の会議できちんと資料を入れるように指示をすると、厚生労働省にとって都合のわるい肝心な部分を勝手に抜いて、意味不明の資料に差し変わっているといった具合である。(5)また、「この部分は事務局が説明しますから」というので説明資料から肝心の部分を省いたら、事務局が結局説明をせず、当日配布資料にすら入っていないということもあった。

 もちろん、委員同士が意見の交換をしないように、重要な連絡を委員一人ひとりに個別に行っていたり、委員間の意見が違う時には個別説明をして情報を都合の良い方向にコントロールすると言う「分断戦略」も行われていた。また、重要な会議の日程連絡や重要な情報がそもそも送られてこなかったり、都合が悪い日程にわざと重要な会議をぶつけてくると言うような「事務局の常とう手段」も、行使されていたように思われる。産業競争力会議では三木谷委員が「医薬品のネット販売ぐらいのことも決められないなら委員を辞職する!」と叫んで、埒の明かない事務局を押し切って、今回の唯一の目玉と言うべき規制緩和項目を通したそうだが、私自身も「この程度の項目が残せないのであれば辞める」と事務局に啖呵を切らなければならないありさまであった。また、大田議長代理とは、事務局抜きで、外の喫茶店で重要な打ち合わせをすることもあった。(つづく)
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