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2013-07-02 12:07

ドイツ、アメリカの親中を問う

酒井 信彦  元東京大学教授
 5月下旬、中国の李克強首相が初めての外遊でドイツを訪問して、メルケル首相と首脳会談を行った。ただしこの訪問で注目すべきことは、会談に先立ってわざわざポツダムを訪れたことである。新華社通信による朝日の報道によると、例の日本の降伏を促したポツダム会談が行われた、ツェツィーリエンホフ宮殿という場所を選定して、「日本が中国から『盗取』した中国東北部や台湾などの島を返還する、としたカイロ宣言を重ねて表明したポツダム宣言の意義を強調したい」と演説した。日本が中国の領土を盗んだという表現は、すでに昨年の9月末に、当時の楊外相が国連での演説で言っている。今度の場合は、尖閣という特定の地名は出さなかったようであるが、最近になって帰属が未確定だと言い出した、沖縄も含まれているのかもしれない。

 今回の発言の最大の注目点は、単にポツダムという特定の場所よりも、ドイツという国で行われたことであろう。ファシズムの最高形態・ナチズムを生み出したドイツという国において、「ファシズム侵略の歴史を美化しようとするいかなる言動もゆるされない」と明言し、しかもそれを日本との現実の領土問題での、自己正当化に適用したわけである。そこで私が興味を覚えるのは、中国との関係におけるドイツの対応ぶりである。今回の中国首相のドイツ訪問に関連して報道されているのは、ドイツと中国とのますますの親密ぶりである。とくに経済的関係がEUの不況も影響して、ますます拡大している。6月2日の朝日新聞によれば、ドイツにおいては中国からの直接投資を大歓迎しているし、中国におけるドイツ車の生産は日本を追い抜き、販売も好調だという。では以前から言われていた、中国の人権問題はどうなったのか。全く問題にはならなかったらしい。すでに首脳会談以前の朝日新聞によると、一緒に訪問したスイスも併せて、「経済関係が深まる一方で、両国は人権問題での後退が目立つ」とあり、さらに「ドイツも、(中略)経済力を背景に強気の中国に対し、厳しい批判を打ち出せずにいる」とある。

 しかしそもそも、ユダヤ人の大虐殺という、忌まわしいナチスの過去をもっているからこそ、ドイツ人は人権問題に厳しかったのではないのか。特に共産主義の東ドイツ出身のメルケル首相は、より一層関心が強いと言われていた。それが現実には、目を覆いたくなるようなエコノミック・アニマルぶりである。メルケル首相は、2005年の就任から6回も訪中し、ドイツはヨーロッパ最高の親中国家となった。ということはいかなることなのか。それはドイツが過去を反省していると言うのは、全くのウソだということになる。ドイツは過去を反省しているのに、日本は反省していないと言って、歴史問題によって日本が批判・糾弾されるのが常である。韓国はユダヤ人大虐殺と慰安婦問題を同列に並べて、世界に対して日本攻撃の大宣伝をしている。しかし中国がやっていることは、単なる人権問題ではない。それは侵略問題であり、さらに民族浄化・ジェノサイドという問題である。つまり中国人の中華民族主義というイデオロギーこそ、現代に生きるナチズムに他ならない。その現在に生きるナチズムを批判せず、ひたすら中国との親密関係を求めることは、ドイツが自己の忌まわしい過去を、反省していない証拠ではないか。

 中国に対する欺瞞的な対応ということでは、アメリカも同じである。今回の米中首脳会談で、それはより一層明確になった。何十年も前の慰安婦問題で日本を攻撃するアメリカが、現実に存在する中国における深刻極まりない、人権問題・侵略問題・虐殺問題を黙認している。世界の警察官・アメリカは堕して、世界のならず者・中国と癒着した。私が何年も前から主張していることだが、結局アメリカは日本を中国に売りとばすだろう。そうならないためには、日本はチベット・ウイグル・南モンゴル問題という中国の最弱点を突くべきである。それは中国人に対してのみならず、アメリカへの反撃の武器になるに違いない。ただし日本の政治家には安倍政権といえども、それを実行する勇気があるとはとても思えないが。
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