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2013-09-20 14:23

(連載)イラクの安定なくしてシリアの平和なし(3)

河村 洋  外交評論家
 ライアン・クロッカー元大使は、イラクでの治安改善とアメリカのイラクへの影響力強化のためには治安部隊に武装と訓練を供与するとともに、戦略枠組合意に基づいて事務レベルでの意思疎通を促進するようにと提言している。本年7月に2008年以来最悪の死者数を記録したという事態を受けて、8月中旬にワシントンを訪問したイラクのホシュヤール・ゼバリ外相は、「イラク政府内でもより積極的に諸外国に支援を求めるべきだという認識が高まっている」と述べた。ゼバリ外相は、イラクからスンニ派のテロリストがシリアの反政府勢力に加わってアラウィ派のアサド政権と戦っている事態を深刻に憂慮している。

 国際世論は、イラクでの経験を踏まえてシリア介入には消極的である。そうした中で、9月6日にBBCとのインタビューに応じたイギリスのトニー・ブレア元首相は「下院がシリア攻撃を否決したためにアメリカとの同盟関係を低下させたうえに、アサド政権による化学兵器を使用した大虐殺に対する(シリア国民への)R2Pの任務も果たせなくなってしまった」と述べた。イラクと違ってシリアの場合には化学兵器の使用が明白であるので、ブレア氏は介入への(世論の)心理的な障壁を語る際には過激派の参戦という問題に焦点を当てている。実際に米国共和党内の反戦派は、オバマ政権がアサド政権を攻撃することによって親欧米の自由の戦士よりも過激派を利するのではないかと懸念している。ちなみにエジプトでのムスリム同胞団の政権掌握後欧米の保守派を驚愕させたのは、モルシ氏によるシャリア法の導入であった。

 イラク戦争の後遺症がシリア問題に及ぼす影響に関して、ポール・ウォルフォビッツ元国防副長官も9月4日にCNNの『アンダーソン・クーパー360』に出演した際に「化学兵器に使用は明白だ」と述べた。ウォルフォビッツ氏は「レーガン・ドクトリンに従ってアメリカ側について戦う者には援助の手を差し伸べ、武器供与によって彼らの戦いを支援すべきだ」と訴えた。厭戦気運に満ちた世論に対し、ウォルフォビッツ氏はシリアでは地上軍の派遣は必要ないと応じている。同氏は「湾岸戦争で敗戦を喫した直後のサダムがクルド人を圧迫した際にアメリカは迅速に対処すべきだった」と述べている。これはアメリカの介入を道義的に肯定するうえで重要な論点である。

 中東の危機に対する国際的な介入のリスクを語る際には、非介入のリスクも考慮しなければならない。オバマ政権の対イラク非関与政策がシリアの内戦とアラブの春以降の中東の政治変動を悪化させている。地政学的な位置を考慮すれば、シリアの内戦、アラブの春以降の民主化促進、中東でのアメリカの優位の維持といった諸課題で、イラクはきわめて重要な国である。そして対症療法的な国別の対策よりも包括的な中東戦略が必要である。(おわり)
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