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2013-11-06 08:06

(連載)特定秘密保護法案の問題(定義の欠落)(1)

桜井 宏之  軍事問題研究会代表
 特定秘密保護法案が国会に上程されました。筆者は、国民主権の下では国家秘密の存在など許されないなどというような意見に与することはできませんし、国家秘密は保護されるべきとの立場ですが、この法案には反対です。その最大の理由は、保護すべき対象となるはずの「特定秘密」が法案では定義されていないからです(メディアは「特定秘密」の定義が曖昧と批判しますが、正しくは「定義がない」と批判すべきです)。この法案では、一般国民も処罰の対象となります。定義も存在しない「特定秘密」の「教唆」「煽動」で罪に問われては、報道業務の従事者に該当しない(大学教授など研究者はいずれも該当しないでしょう)筆者のような在野の軍事研究者にとっては問題は深刻です。

 この法案の最もおかしな点は、「特定秘密」の保護を目的に謳いながら、「特定秘密」とは何かについて全く定義を行っていないことです。法案の第2条において、条文の文言について定義を行っていますが、ここでは「行政機関」に該当する組織を規定するのみです。本来であれば、「特定秘密」の定義がここで真っ先に挙げられなければならないはずです。事実、中曽根政権下で自民党が提出を試みたスパイ防止法案(正式名称「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」)では、第2条【定義】で保護すべき「国家秘密」が定義されていました。

 特定秘密保護法案第3条には、「当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」との文言がありまして、これを「特定秘密」の定義と見る向きもありますが、そうであれば第2条に堂々と列挙すれば良いはずです。どうもこの第3条の文言は、「特定秘密」の指定要件の規定のようです。この法案を担当する礒崎総理補佐官が、ご自身のホームページで(http://www17.ocn.ne.jp/~isozaki/myopinion.html)、法案は「特定秘密」の指定要件を規定すると説明しているので、第3条の文言はその条項に該当すると思われます。なお同補佐官は、ホームページで何度も法案の説明をなさっておられますが、「特定秘密」の定義については全く言及されていません。

 法案が「特定秘密」の定義を避けているのは、裁判で「特定秘密」に該当するか否かの争いになった際に、政府は指定されている事実をもって(実質秘の立証をせず)、「特定秘密」に該当すると主張する腹づもりで、敢えて定義をしなかったのではないかと疑いざるを得ません。そして法案における「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」という指定要件は、抽象的と指摘せざるを得ません。(つづく)
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