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2013-12-26 07:42

新辺野古基地は中国の極東戦略にくさび

杉浦 正章  政治評論家
 普天間基地の辺野古への移転実現は、極東における日米安保体制の維持発展への礎石となるものであろう。12月25日の首相・安倍晋三と沖縄県知事・仲井真弘多の実質合意は、普天間をめぐって日米間に亀裂が生ずることを期待する中国など周辺諸国の思惑が見事に外れたことを意味する。その意味で「新辺野古基地」は、中国が突破を図ろうとしている沖縄・尖閣・台湾・フィリピンとつながる第1列島線確保の中核として、その存在価値を今後一層高めることになる。仲井真も変われば変わるものである。かっては辺野古移転を主張していたものの、民主党政権時代には移転反対の急先鋒と化してしまっていた。「銃剣とブルドーザーで基地を作るのか」とまで発言し、すごんでいた。それが安倍に対しては、「驚くべき立派な内容を提示いただき、140万沖縄県民全体も感謝している」である。この仲井真のオーバーなまでの大変身も無理はない。戦後の暗愚首相の筆頭である鳩山由紀夫の「最低でも県外」発言が、自民党政権が1996年の日米普天間返還合意以来積み上げてきた辺野古への移設の「ガラス細工」を打ち壊してしまっていたからだ。

 鳩山発言は、知事を二階に上げて、はしごを外したようなものであり、“自暴自棄”的に仲井真も「県外」をいわざるを得なくなったのだ。しかし、仲井真ほどの洞察力のある政治家なら、辺野古移転が普天間固定化を防ぐ唯一の方策であることくらいは十分理解していたことだろう。普天間固定化をどうしても避けなければならないことは、まさに沖縄の政治家にとって選択肢のない常識なのである。仲井真は大迂回して、再び辺野古に戻ったのだ。安倍自民党政権は誕生早々から、民主党政権を反面教師とするかのように、普天間問題を突出型対応から、自民党独特の根回し型政治へと大変換させた。首相以下、外相、防衛相、官房長官、自民党幹事長らがひっきりなしに「那覇詣で」を繰り返し、「沖縄懐柔」につとめた。その結果、あれだけ固かった沖縄の政治家たちが、徐々に安倍政権へとなびき始め、発足以来ちょうど1年で180度の転換を実現させたのである。最終根回しは東京で行われた。検査入院など那覇でも十分出来るものを、わざわざ東京で入院させたことが、既に仲井真が“半落ち”状態にあったことを物語る。言うまでもなく、官房長官・菅義偉の“寝技”が功を奏したに違いない。

 こうして12月25日の安倍・仲井真会談となったのだが、こじれにこじれた普天間移設問題が、たったの25分の会談で事実上の合意となった。会談は、安倍が満額回答を出すための「式典」であったのだ。その証拠に25分のうち15分間はテレビに公開したほどであり、すべては「出来レース」の会談であった。もちろん仲井真の要求である普天間の5年以内の運用停止やオスプレイの訓練の過半を県外に移転することなど、ほぼ満額回答である。今後、辺野古埋め立ての早期実施に向けて動き出すことになるが、「辺野古闘争」がどの程度盛りあがるかが焦点になろう。かつて海上での調査に対して、反対派がカヌーで妨害活動を展開した事件があり、生やさしい反対運動ではないと見るべきだろう。辺野古は既に米軍基地であり、基地内からの埋め立てが沖に向かって進展することになるだろうが、反対派は基地周辺での座り込みやピケを戦術とするだろう。年寄りや女性も参加する可能性が強く、機動隊による強引な排除で死傷者などが出れば、反対派の思うつぼになる。全国の反戦活動家を刺激して、反対闘争をこじらせ「成田闘争」や「砂川闘争」レベルにまで盛り挙げてしまってはなるまい。慎重なる対応が必要となろう。来月行われる沖縄県名護市の市長選挙の帰趨も反対運動の動向を見る上で欠かせない。移設に反対の現職稲嶺進と、自民党が一本化に成功した移設推進派の末松文信の戦いになる見通しだが、沖縄の特殊事情もあり予断はできない。

 民主党政権の普天間大失政は極東の安全保障問題に大きな影を落とし、その日米亀裂の間隙を突くかのように、中国は2010年に尖閣諸島で漁船衝突事件を巻き起こした。フィリピンから米軍が引き揚げた途端に、南沙諸島の軍事基地化を加速した事例と全く同一の動きを見せたのだ。今中国政府は普天間の辺野古移転の実現に青ざめているに違いない。普天間での日米の亀裂を突けるという判断そのものが、誤判断となったからだ。なぜなら、辺野古は今後中国の海洋進出に対する防波堤の役割を果たすからである。一方で米国は沖縄という地政学上の要衝を今後長期にわたり確保出来ることになった。思いやり予算で米軍の基地のコストを7割も負担している国はなく、オバマ政権の「縮軍」政策ともマッチする方向なのである。環境調査などでの新協定作成へ向けての譲歩などは、実際にはそれほどの痛痒を感じるものでもあるまい。沖縄の基地の維持とその近代化を図れれば、取るに足りない代償でしかあるまい。他国の米軍基地問題に波及しかねない地位協定の改定でなければ、「環境協定」などは難しい問題ではない。飛行場建設も急げば、5年以内の完成も無理ではあるまい。普天間の5年以内の運用停止も実現性が高いと見るべきであろう。
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