国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-01-07 18:04

(連載1)米国のイラン政策への疑問点

河村 洋  外交評論家
 穏健派のロウハニ政権の就任はメディアと専門家筋から非常に好意的に受け止められ、中にはイランとのデタントを期待する向きもある。アメリカ政界とも個人的に緊密なつながりを持つモハマド・ザリフ氏が外相に起用されたことで、そうした歓迎ムードは強まっている。イラン経済が制裁の痛手を受けたために欧米との雪解けに歩まざるを得なくなったとの理解が広まっている。しかしイランが平和志向の国になったと見なすには時期尚早である。ハッサン・ロウハニ大統領は就任以来、前任者のマフムード・アフマディネジャド氏による「イスラエルの抹殺」という悪名高き発言をまだ取り消していない。さらにイランは核交渉を進めながら欧米との対決姿勢も見せている。またジュネーブ合意に基づく交渉はイランの核兵器保有の野望阻止には完全とは言い難いので、フランス、イスラエル、湾岸アラブ諸国は深刻な懸念を抱いている。

 まず、核交渉と並行してイランが欧米に対して仕掛けている地政学上のパワー・ゲームについて述べたい。ジュネーブ交渉の内容をさらに進めるために12月9日から12日にかけて行なわれたウィーン交渉を前に、ロウハニ師はアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領と協力条約の締結に合意した。12月8日の両国首脳会談ではロウハニ師がカルザイ氏にアフガニスタン駐留の外国軍の完全撤退を要求した。現在、アフガニスタンとアメリカのBSA(Bilateral Security Agreement:二国間安全保障合意)に向けた交渉が頓挫しているのは、カルザイ氏がロヤ・ジルガの承認を覆してアメリカ側に次のような要求をしたからである。その内容はまず米兵による不行の場合の司法管轄権の帰属の再考、アフガニスタン軍に供給する兵器の最新化、そしてアフガニスタン国内の兵員駐留期限の設定である。アフガニスタン外務省のジャラド・モルザイ報道官は12月15日の記者会見で「アフガニスタンはイランともアメリカとも良好な関係を模索している」と述べた。他方でイラン外務省は12月3日の国営プレスTVで「アメリカとアフガニスタンのBSAはNATOの任務が終了する2014年以降も外国軍の駐留を延期するものだ」と非難している。

 イランはさらにアメリカを刺激する行動に出ている。チャック・ヘーゲル国防長官とパキスタンのナワズ・シャリフ首相が12月11日にイスラマバードで会談した際には無人機攻撃をめぐって米パ関係が冷却化する一方で、同じ日にイランのビジャン・ザンゲネ石油相とパキスタンのシャヒド・アッバシ石油・天然資源相はテヘランで両国がパイプライン建設作業を再開すると表明した。アメリカはその取り決めによって現在の対イラン制裁が空洞化するとして反対している。パキスタンはイランからの天然ガスの需要を満たすためには、制裁継続の見返りにアメリカが提供しているインフラ支援をも無視している。イランがパキスタンとアフガニスタンに仕掛けている外交攻勢から、アメリカとのデタントなど遠いものだとわかる。

 シリアも核交渉と相互関連する地政学的な問題である。イランはアサド政権への支援、イラクで戦う民兵の採用活動、ヒズボラとの同盟によるレバノンでの影響力拡大とイスラエル抑止といった政策で欧米と対立している。こうした政策は、国連主導で1月22日にスイスのモントルーで開催されるシリア会議に真っ向から挑戦を突きつけるものである。ロウハニ師が核協定による制裁の緩和を模索する一方で、革命防衛隊はそうした取り組みを利用してテロリストを支援しようとしている。ワシントン近東研究所のアンドリュー・タブラー上席フェローは「レバント地域が強硬派の影響下に置かれれば、イランの核開発に関する取り決めは機能しなくなる」と論評している。他方でカーネギー国際平和財団のカリム・サドジャプール上席研究員によると「シリアに関するイランの立場は、誰かがアサド政権に取って代わるとアメリカにとってもイランにとっても現状より危険になる」ということである。問題は、核交渉とイランの地政学的な抵抗姿勢を分けて考えられるかということである。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム