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2014-01-08 13:50

(連載2)米国のイラン政策への疑問点

河村 洋  外交評論家
 さらにイランのホセイン・デフガン国防相がイラン軍はレーザー技術により長距離ミサイルの精度を向上させたと公表したのは、ウィーン交渉が始まった12月9日であった。アメリカ国防総省はイランのミサイル精度が急速に高まっていることに危機感を強めている。そうしたミサイルは湾岸王政諸国やイスラエルに大きな脅威となる。イランが本気で核開発を停止するつもりなら、ミサイルの性能を向上させる必要があるのだろうか?現在のイラン経済は制裁により大きな打撃を受けている。過去2年間で石油輸出は60%も落ち込んだ。GDPは5~6%縮小し、インフレ率と失業率はそれぞれ45%および35%も跳ね上がった。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院のバシル・ナスル学長は「主要国はイランに圧力をかけるよりもこの機を逃さずに核交渉に乗り出すべきである」と主張する。イランには主要国に対して国連査察を受け入れる代わりに制裁解除を要請しなければならない立場である。しかしイランが経済のためだけで核不拡散の国際規範に従うと思い込むことは危険である。技術的に言えばイランは取り決めの抜け道を見出すこともでき、さらにイランの体制の在り方も問われねばならない。

 11月24日のジュネーブ合意の下では、イランは5%以上のウラン濃縮の停止、国連査察の受け入れ、アラクのプルトニウム施設の操業停止をしなければならない。P5+1はその見返りにイランの石油および石油化学製品の輸出への制裁緩和、および人道的経済交流の円滑化のための資金調達窓口の設立を行なう。またアメリカ、EU、国連安保理は核開発との関連で新たな制裁を課さないことになった。問題はイランがウラン濃縮を継続できることで、この件に関してはイランと欧米の理解の溝は埋まっていない。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、この取り決めではウラン濃縮が認められているためにイランを第二の北朝鮮にしてしまう歴史的な誤りだと述べている。共通の脅威を抱えるイスラエルはサウジアラビアとの戦略提携の可能性を探るようになっている。イランはパレスチナとレバノンでハマスを、シリアでアサド政権を、湾岸王政諸国ではシーア派の反体制勢力を支援している。さらにイスラエルと湾岸アラブ諸国は、アメリカが自分達を顧みずにイランとの協調路線を進めているのではないかと懸念している。

 中東地域のアメリカの同盟諸国がオバマ政権に対してそのような不信感を抱くのは、地政学だけが理由ではない。ジュネーブ交渉の前にアメリカとイランはオマーンで秘密交渉を行なった。イスラエルと湾岸アラブ諸国の懸念にもかかわらず、イギリスのデービッド・キャメロン首相は11月25日に「ジュネーブでの合意のような継続的な外交努力と厳しい制裁を併用してゆくことは我が国の国益に適う」と述べている。事態はそのように楽観視できるのだろうか?ジュネーブ交渉の当事者でもあるフランスのローラン・ファビウス外相が懸念しているのは「イランが核開発計画のある部分を制限すれば金融制裁が緩和される」と記された合意文書の後半で、それは「イランが核兵器開発能力を完全に放棄するのか、それとも一時的に核開発を中止するだけなのか明確でない」からである。
 
 実際に2005年にはこれと類似した取り決めが提案され、イランは遠心分離機の数が制限される代わりにウラン濃縮が認められることになっていた。しかしブッシュ政権とEUはその提案を拒否した。ジュネーブ合意は2005年から後退したものなのだろうか?民主党のロバート・メネンデス上院議員が委員長を務める上院外交委員会は、イランへの圧力を強化するために12月19日付けでイラン非核化法案を超党派で発議し、イランの核開発能力の根絶を訴えた。(つづく)
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