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2014-03-18 11:50

(連載1)公的年金の「財政検証」について考える

鈴木  亘  学習院大学教授
 公的年金財政の5年に1度の健康診断である「財政検証」(将来にわたる年金財政の維持可能性のチェック)の作業が、現在、厚労省によって行われている。前回の2009年1月の財政検証で、厚労省は、リーマンショックの最中にもかかわらず、リーマンショック前の景気好調時の統計のみを使って、バラ色の経済前提シナリオを描き、年金財政の「100年安心」が確保されていると宣言した。しかし、特に今後100年近い期間における積立金の運用利回りを、4.1%もの高率に想定したことに関しては、「粉飾決算」との激しい批判が行われたことは記憶に新しい。

 今回の財政検証は今年6月に行われるということであるが、既にその前哨戦は始まっている。前回批判を浴びた運用利回りを含め、将来の経済状況(経済前提値)をどう想定するかについて、厚労省・社会保障審議会の専門委員会で話し合われてきたが、先日(3月6日)の委員会で、厚労省からその原案が示された。もっとも注目される積立金の運用利回りであるが、結論は、実質利回りは「1.7%」ということである。

 なるほど、実質1.7%であれば、物価上昇率1.0%とすれば名目2.7%である(1.7+1.0)。日銀のインフレーションターゲットがうまくいって物価上昇率が2.0%になっても、名目で3.7%(1.7+1.0)なのか。いくらアベノミクスがうまくいっているとは言っても、現在の株高は一時限りだし、100年近い将来の利回りとしてはちょっと高いけれど、前回の4.1%に比べればだいぶマシになったなどと思ったら、大間違いなのである。

 驚くべきことに、今度は、「実質」という言葉が「粉飾決算」になっている。実質と聞くと、普通は誰もが「名目利回り―物価上昇率」と思うだろうが、今回、厚生労働省が考えた定義は「名目利回り―名目賃金上昇率」だそうである。具体的に、厚生労働省が示した資料には、下記のように、あからさまな記述がある。「名目値による運用利回りがひとり歩きして運用目標に関する議論が混乱したとの意見があり、運用目標としては、名目賃金上昇率を上回る運用利回り(α)のみを数値で設定(名目賃金上昇率は数値を示さない)するよう運用利回りの示し方を変更する。」(つづく)
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