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2014-04-08 14:39

新プーチン・ドクトリンは「新冷戦」の序曲か

飯島 一孝  ジャーナリスト
 プーチン・ロシア大統領はウクライナ・クリミア半島のロシア編入を強引に推し進め、欧米などから「戦後の世界体制を大きく変えようとしている」との懸念を呼んでいる。プーチン大統領は世界をどう変えようとしているのか。そのカギを解く「新プーチン・ドクトリン」がプーチン氏の演説から浮かび上がってきたと、リベラル派の論客で、元ロシア下院議員のウラジーミル・ルイシコフ氏(47)が、ロシア紙『モスコー・タイムズ』に寄稿した論文で言及している。クリミア半島のロシア編入を上下院に提案した3月18日のプーチン演説を元に同氏が分析したもので、ロシアは軍事力などを背景に旧ソ連圏の特殊権益を死守しようとしていると見る。この論文の中で、同氏は7項目に及ぶプーチン大統領の新ドクトリンに言及している。

 第一は「ロシアはもはや西側を信頼できるパートナーとはみていない」だ。プーチン大統領は「冷戦は終わったのに、西側はロシアに対し冷戦時のような封じ込め政策を追求している。今後ロシアはこの厳しい現実をもとに行動せざるを得ない」と主張している。第二は「ロシアはもはや自国を欧州文明の一部とはみなさない」だ。その理由は、ロシアは民主主義国家だが、特別な民主主義で、ニセ民主主義の教義を拒否すると指摘。具体的には「国民の90%以上がクリミア編入を支持すれば、民主主義原則に基づいて編入に合法性がある」と強調している。第三は「国際法はもはや参考にすべき傾向に過ぎない」としている。プーチン大統領に言わせると「国際法は大国が国益に合わせて自由に選べるオプションのメニューに成り下がった」という。「ロシアは今や大国なので、米国のようにダブルスタンダード(二重基準)を誇示する権利がある」ともいう。

 第四は「新ドクトリンは旧ソ連の全領土に適用される」だ。これは「旧ソ連諸国のどの国でも、EUやNATOに加盟しようとすれば、ロシアは行動を起こす」との警告だ。「世界の大国にゲームのルールを修正するよう密かに呼びかける」とされる。第五は「大国の軍事的、政治的利益が脅威にさらされた場合、弱小国の内政に自由に干渉できる」とする内容だ。「大国の力による内政干渉を事実上認める」ものといえる。第六は「国連のような国際機関の役割は大きく後退している」と指摘している。これは「米国とその同盟国が、過去20年間に国連抜きで軍事作戦をいかに行ったか」を指している。第七は「新ドクトリンは世界の新たなパワーバランスを背景にしている」という。これは「西側の軍事的、経済的影響力が著しく低下した半面、アジアやアフリカの新興国が影響力を持ってきた」状況に合わせた対応を求めたもので、「世界が極めて不安定になり、軍事紛争が増加する」と展望している。

 7項目の新ドクトリンをまとめたルイシコフ氏は、プーチン大統領がクリミア半島の編入に成功したことから、ロシアが更に他の地域を編入する危険な兆候の始まりだと警告している。これはウクライナ東部やモルドバ東部の沿ドニエストルなど、ロシア系住民が多い地域への軍事介入の可能性を示唆しているとみられる。この新ドクトリンは、米欧への不信感をむき出しにし、旧ソ連圏の特殊権益を守るためには国際法を無視してでも実力行使する意向を示したものと受け取れる。これまでの「旧ソ連圏への影響力維持」からグレードアップしており、旧ソ連の再建を意味する「ユーラシア同盟」の構築に今後本格的に取り組む考えとみられる。このドクトリンが実行に移されれば、ロシア対欧米諸国の「新冷戦」が起こりかねない危険性を帯びている。
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