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2014-04-11 11:13

(連載2)金融が世界の覇権を握る

中村  仁  元全国紙記者
 日本に先立ち、リーマンショック(08年)後に大胆な金融緩和をして危機を乗り切ったとされる米国では、超緩和から正常化を目指していく「出口戦略」がいかに難しいかという局面を迎えています。世界はマネーが不足しているどころか、過剰であり、あまりにも巨大な市場を形成しているため、ちょっとした金融政策の変更にも細心の注意が必要になっています。豪雪のあと、何かのきっかけで雪崩現象がおきるのと似ています。それでもアメリカは成長余力がありますから、金融政策の操縦を誤らなければ、正常化の道に戻れるでしょう。日本のように、製造業の海外移転、少子化、財政の極度の悪化が進み、成長余力が乏しい国は、金融をいったん、超緩和をしてしまうと、もう元に戻れない恐れがあります。日本の財政赤字は先進国では最悪の状態です。異次元緩和では、新規に発行される国債の7割に相当する金額を日銀が毎月、購入を続け、現在の国債保有高は200兆円近くになります。日銀が国債を買わないと、財政がまわらないという状態を作ってしまいました。

 いろいろな試算があります。世界をめぐるマネーは300兆ドル(年間の通貨取引高)、為替市場の1日の取引高は1・5兆ドルで、OECD(先進国グループ)のGDP総計の20倍(1日あたり)とか。世界で動いているマネーの95%は、実体経済の取引に対応していないという指摘を読んだことがあります。マネーがいかに巨大な存在となり、バブル化しては乱高下を繰り返し、実体経済を痛めつけるか。とくにこの2,30年は、そういう繰り返しですね。世界的にマネーは供給過剰であり、緩和するより、縮小していかないと、マネー覇権をさらに巨大化させてしまう、とわたしは思っています。マネーの供給を削減しようとすると、市場が反乱を起すという形で、抵抗を受けるのです。軍事力がアメリカの覇権を支えていた時代に、軍事費の削減が難しかったのと似ていないでしょうか。

 先進国で超低利で調達したマネーで、中国の高利の金融商品(たとえば理財商品)を買い、荒稼ぎしてきた金融機関、投資家がいます。そのため、中国経済が減速し、陰りがでてくると、その影響は世界的な広がりをもってしまうのです。中国もマネー覇権の影響下に置かれています。日銀はマネー市場が妙な動きをしないように、市場との対話を重視するといっています。金融政策について、市場関係者に丁寧な説明に務めています。その一方で、サプライズによって市場にショックを与えるとも考えています。1年前の異次元緩和もサプライズでした。サプライズは何度も使えません。市場との対話と、市場の裏をかいてサプライズを与えることは、本来、矛盾しているのです。

 強気で自信満々の黒田総裁を「黒田一本槍」と呼ぶそうです。マネー覇権はマネーそのもの、金融機関、投資家、中央銀行などで構成されます。覇権の内部でも、中央銀行対民間などの対立があります。黒田総裁はそうした対立と一本槍でどう戦うのか、戦略を練っておかねばなりません。(おわり)
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