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2014-04-25 10:45

(連載2)中国は自国の行方が分らない

中村  仁  元全国紙記者
 日中紛争はとげとげしさを増すばかりです。そうした時期、習主席に近い胡徳平氏(胡・元総書記の子息)が来日して、安倍首相と面会しました。石原都知事の時に犬猿の仲になった北京の市長の招待で舛添知事が24日から、18年ぶりに訪中します。中国もさすがに日中問題の改善を図ろうとしはじめたのではなかろうか、という観測がなされました。その矢先に、日中戦争前後の1930年代の船舶の賃借料をめぐる訴訟で、商船三井の船舶が中国に差し押さえられてしまいました。「また中国は古い話を持ち出して、日本困らせようとしている」との反発がおきました。「それみたことか。尖閣諸島や南シナ海の海洋をめぐる紛争が、習一極体制のもとで指揮されており、対日強硬策はその流れだ」との解釈が多く聞かれます。そうなのでしょうか。

 中国外務省は「戦争賠償問題と無関係」と説明しています。読売新聞は社説で、菅官房長官の「遺憾だ。日中共同声明に示された国交正常化の精神を揺るがす」との発言を引用し、「賛同できる見解だ。歴史問題で対日圧力をかける習政権の下、日中関係は悪化する」と、カンカンに怒っています。政府、党関係者など当事者ならともかく、マスコミはもう少し距離を置いて物事を論じる必要があります。経済面では「対中投資落ち込み懸念」という関連記事をさっそく載せています。習政権の対日政策が背後にあるとの通念に傾きすぎていますね。朝日新聞は「日中は冷静に対応せよ」と題して、「この訴訟には複雑な経緯がある。戦後補償問題に絡めて論じるのが難しい特殊な民事紛争だ。民間企業同士の訴訟の扱いだ」と書きます。毎日は「不信で対話を止めるな」とのタイトルで「疑心暗鬼から相手側の行動の意図を読み誤ってはならない。まずいきり立たず、冷静に中国の出方を見守るべきだ」と、読売とは、かなり異なるスタンスです。当事者の商船三井は、40億円をさっさと供託金という形で裁判所に支払い、紛争化するのを避ける道を選びました。国家を絡ませず、民事問題として対処するという意識だったのですね。

 中国は共産党の独裁国家で、司法も完全に独立していることはないでしょう。「共産党は船舶の差し押さえをあえてとめなかった」との見方もあります。もし司法の判断を習政権が阻止したら、国内で政権批判が高まり、さらに対日強硬策をとらないと収らない事態に波及したかもしれないのです。習一極体制といっても、磐石ではなく、習総書記は四方八方に気を配りながら、舵取りを続けているに違いありません。格差拡大に不満を強める大衆を敵に回したくない、国際感覚が乏しいとしか思えない軍の膨張主義を黙認しなければならない、党内の権力闘争がくすぶっており油断ならない、なにしろ国土が巨大でいつどのような事態がおきるか予想できず右往左往するなど、習一極体制が確立していると言い切るには無理があるでしょう。

 中国が今後どういう国になっていくのか、共産党の独裁体制がいつまで続けられるのか、国際社会の中で信頼される大国になれるのかどうか、といった長期的見通しを持てていないでしょう。国内社会の格差是正策、大気汚染対策、中央政府の統制がきかない「影の銀行」対策などを、混乱なく解決していく具体策があるかどうかについても、自信を持っていないでしょう。中国は国際的にも国内的にも、許されない問題を次々に引き起こしています。それぞれについて、抗議し、批判していくことは必要です。その一方で、対中問題をなにかと国家的対立に位置づけてしまうと、問題をこじれさせるだけです。中国は「さ迷える大国」と考え、幅を持った多様なアプローチの道を選択していかねばなりません。(おわり)
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