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2014-09-02 10:43

(連載2)辺野古移設強行と沖縄知事選

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 11月の沖縄知事選は「辺野古移設の是非」が最大の争点になる。知事選に備えて政府は移設作業をどんどん進め、既成事実を作り上げようとしているようにも見える。「辺野古移設はベスト」と県民との約束をひっくり返した現職で3選を目指す仲井真弘多知事に対する批判はやむどころか、広がる一方だ。安倍首相が見返りに用意した潤沢な経済振興策と基地負担低減への約束は、今ではすっかり色あせてしまった。移設強行は政治的にはマイナス要因でしかない。どう見ても現職に不利だ。不利を承知で作業を強行するのは現職有利に持ち込む戦略だとの見方が多いが、私はそうは思わない。安倍政権にとって、現職が勝つに越したことはない。だが、現実は極めて厳しいと言わざるを得ない。政権の胸の内を推し量れば、もはや勝敗は関係ない。現職は負けてもいい。移設作業は既定方針どおり「粛々と進める」だけだ。移設反対の知事が誕生しても、その方針は変えないだろう。自民党は8月末になってようやく仲井真推薦を決め、河村建夫選対委員長が沖縄を訪れ、推薦状を手渡した。「辺野古」を争点としないで、これまでどおり経済振興で挑もうとしたが駄目だった。現職の劣勢を予想して別の候補者を探してみたがいなかった。迷いに迷った挙句の現職推薦である。選対委員長が出向いて推薦状を渡すなどは聞いたこともない。それだけ知事選は安倍政権を悩ませたと言える。

 知事選を見通す上でカギになるのは民意の動向だろう。「沖縄のことは自分たちで決める」と、「自己決定権」を主張する声がかつてなく高まっているのも、近年にない沖縄の注目すべき変化だろう。沖縄のアイデンティティーを自覚する民意の高まりだ。この意識に火を付けたのは、ほかでもない民主党政権の鳩山由紀夫元首相だ。元首相は、「最低でも県外」と言い続けながら、最後は「学べば学ぶほど(海兵隊の)抑止力が分かった」と子供じみた感覚で約束を引っ込めた。県民に普天間の県外移設の夢を見させておきながら裏切った元首相は、「基地は沖縄に」というオール日本の意識を浮き彫りにした、と県民は受け止めている。これが機となって「ヤマトがその気なら、われわれも一つになって立ち向かおう」と、「オール沖縄」で対抗しようとなったのである。知事選の有力対抗馬と目される翁長雄志那覇市長は間もなく「辺野古移設反対」で正式出馬表明するようだ。翁長市長は、一昨年から「オール沖縄」運動の先頭に立って奔走してきた。その市長が保革の枠を超えて出馬しようというのだから、今度の知事選は異例な選挙となる。

 昨年の特定秘密保護法成立以来、安倍流の外交安全保障政策は年末の日米新ガイドライン協議で新たな枠組みができる。政権は普天間の辺野古移設作業がガイドライン協議の足かせになるようなことはできないし、そのつもりもないだろう。だが、強気一辺倒で事が進むとは思えない。辺野古移設作業の現状は本体工事に先立つ調査段階だ。本体工事では作業ヤード設置のための港湾使用や資材搬入のための道路使用、開発行為に伴う基地内の文化財調査など、県や名護市の許認可が必要となる事項は多い。移設作業着手はできたが、本格着工までに越えなければならない課題は多い。現行法で対処できない場合は、法改正、場合によっては「特別法」の検討もあるかもしれない。

 基地問題を巡る国と沖縄の対立の火種は絶えない。いわゆる反戦地主の抵抗で混乱した米軍への基地提供義務の継続を巡って大もめになった1980年代から90年代にかけての「米軍用地強制使用特別措置法」改正や、国と県が最高裁まで争った「代理署名訴訟」などと似た状況が表れないとは限らない。時とともに民意が「人権色」を濃くするのは、基地問題を取り巻く状況が変化しているからだ。この変化に目をつぶり、これまでどおりの対応で乗り越えられると考えるようでは、問題解決は望むべくもない。辺野古集落の人たちが、基地の受け入れの賛否を巡っていがみ合う状況が今また表れている。18年前に日米両政府が普天間飛行場の辺野古移設で合意してから、辺野古集落の相互扶助「ゆいまーる」にはひびが入ったままだ。県民同士のいがみ合いは悲劇を招くだけである。
 移設作業が本格化した時期は、先祖の霊を迎え送る旧盆に重なる。先祖を敬う沖縄の風土を逆なでするような国の強行策が県民の気持ちを頑(かたく)なにさせたことは間違いない。一昨年4月の「主権回復の日式典」は、沖縄県民にとって日本の独立と引き換えに本土から切り離された「屈辱の日」に当たる。今年の式典は見送られたが、政権の沖縄を見る目には温かみが感じられない。政治が「情」を欠いた典型だ。政権が強気で作業を進めようとすればするほど、沖縄側の反発、抵抗が大きくなり矛盾が噴き出る可能性は否定できない。住民に嫌われた安全保障政策が機能するとは思えない。これ以上、国と沖縄の溝を大きくするような挙に出るべきではない。得るものは何もない。傷口を大きくするだけである。(おわり)
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