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2014-10-24 12:08

(連載3)試練に立つ「安倍1強」

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 週刊誌報道に始まった今度の小渕辞任とそれに〝連動〟した松島法相の辞任の裏に何があったのか。政界の自民党の1強多弱、さらに自民党の「安倍1強」の足元を襲った今回の辞任劇を見ていると、安倍一色と思われた永田町に、思わぬ時限爆弾が用意されていたのではないかと思わざるをえない。

 多数与党のおごり、気の緩みがあったのは素人でも想像がつく。向かうところ敵なしで突っ走る安倍政権の戦略、戦術は見事だった。国民の関心をアベノミクスで経済・景気に引き付け、景況の好転を見定めたところで安保・防衛問題に舵を切った。集団的自衛権行使容認と、その前段として特定秘密保護法の成立は、世論の隙を衝いたものである。その準備も万全だった。そして首相は歴代首相が足元にも及ばないような外遊を重ね、アベノミクスの売り込みと積極的平和主義を強調、新しい日本外交の流れを世界に印象付けた。各国首脳らとの会談で、首相は世界経済への貢献、外交問題への積極的関与に言及した。まさしく、世界を俯瞰する外遊だった。国内論議に先行するような首相の「国際公約」に、国政が後からついていく印象さえぬぐえなかった。

 だが、そんな首相に異を挟む声は聞こえなかった。疑問や不安がありながら言わなかったのか、あるいは首相の〝威〟を恐れて口をふさいでしまったのか。物言わぬ自民党、党内のベテラン、長老議員も首相に「物申す」ことはなかった。党内リベラル派の宏池会の岸田派、平成研究会の額賀派の存在感は、ないに等しい。旧三木、河本派の流れをくむ派閥会長を務めた高村元外相などは自民党副総裁として、石破前幹事長に代わって集団的自衛権行使容認の閣議決定の案文を公明党との間でまとめた。長老自らが、安倍戦略の露払いを演じたのである。

 まさしく安倍政権は〝満月〟の感である。首相がこだわる「戦後レジームからの脱却」は着実に歩を進めてきた。この安倍一色となった国政に文句をつけたのは、わずかに政界を引退した自民党幹事長、官房長官、自治相など要職をこなした野中弘務氏と宏池会会長だった古賀誠氏の2人である。現役時代、政局の節目、節目で存在感を示した実力者だった。だが、両氏の忠告は聞き流された。安倍側近で固められた首相官邸は、新しい〝政治文化〟で塗り固められていたからだ。派閥が競い合った時代は過ぎ、力ずくの権力闘争は見られなくなった。同時に政治に活力がなくなった。政界に戦中、戦後の苦衷を経験した政治家は見当たらない。にもかかわらず、勇ましい安全保障論が飛び交う。「平和ぼけ」のむなしい虚言は、ほどほどにしてほしい。国民は政治の混乱を望んでいない。だが、「政界、一寸先は闇」である。(おわり)
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