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2014-12-31 12:26

(連載1)ハードパワー外交もソフトパワー外交も稚拙なオバマ政権

河村  洋  外交評論家
 オバマ政権はアメリカのハードパワーを外交政策に活用することを非常に忌避しているので、リベラル派や海外の指導者達さえも大統領自身の指導力不足と超大国の自殺行為を批判している。その一方でバラク・オバマ大統領はアメリカのソフトパワーを利用して自国の国益と国際公益の増進を図ることには熱心でない。世界がロシアや中国といった冷戦の怪物の復活とイスラム・テロに典型的に見られるような宗教的な狂信主義の台頭に直面しているため、我々はオバマ氏がハードパワー外交に稚拙なことばかりに注目しがちである。しかしもっとバランスのとれた分析によってオバマ政権の外交政策を批判的に検証すれば、アメリカと世界の安全保障により良いアプローチを模索するうえで役立つであろう。

 オバマ氏がハードパワー外交を好まないなら、もっと強力なソフトパワー外交を展開する必要がある。しかし大統領就任から6年間、オバマ氏はほとんど何も成し遂げていない。通常は平和志向の国ならソフトパワー外交に力を入れる。カナダや北欧諸国が開発援助やエンパワーメントを自国の外交政策で優先度の高い分野としていることは非常によく知られ、それによってこれらの諸国は世界の中でシビリアン・パワーとして重要な地位を占めている。そうした平和志向の国々はアメリカ、イギリス、フランスとは比較にならない軍事小国である。そしていずれもドイツのように全世界とヨーロッパ地域での通貨システム安定の重責を担えるような経済大国でもない。ソフトパワー外交こそが、国際政治の中でこれらの国々の存在感を高めている。

 同様に、日本では1970年代末に大平政権が総合安全保障のコンセプトを掲げ、国際安全保障での日本の貢献増大への要請と戦後平和国家の歩みの食い違いを埋めようとした。日本はアメリカおよびその民主主義同盟諸国からの軍事的役割への要求には応じられなかったので、当時の大平正芳首相はASEAN諸国への援助と政策対話を深化させた。ある意味でそれは安倍政権が現在推し進めている積極的平和主義の先駆けになるかも知れない。と言うのも、それは一国平和主義からの転換だったからである。当時は現在と同様に国際安全保障は不安定で、イランではイスラム革命が起きて過激派の学生がアメリカ大使館を占拠し、またソ連がアフガニスタンに侵攻した。

 上記のような事例に鑑みて、オバマ政権のソフトパワー外交に対する稚拙なアプローチは国際舞台でのアメリカの優位をさらに揺るがしてしまうだろう。ここでカーネギー国際平和財団のトマス・カロザース副所長が12月22日付けで『ワシントン・ポスト』紙に投稿した論説を取り上げたい。カロザース氏は「オバマ政権になってから民主化促進に対するアメリカの援助額が28%も落ち込み、合衆国国際開発庁(USAID)が海外で民主主義、人権、説明責任のある統治の普及に向けて行なった支出は、2009年から現在では38%も縮小している。特にそうした援助額が急激に落ち込んでいる地域を挙げると、中東で72%、アフリカでは43%も縮小している」と指摘する。そして「オバマ政権はどれほど腐敗していようとも安定した独裁政権との共存を望んでいるようにみうけられるが、それは彼らが民主化を求める活動家とイスラム復古主義者の衝突に対処することが困難だと考えているためである」と述べている。カロザース氏はそうしたことは理解できるとしながらも「専制政治は腐敗を助長し、究極的にはこれまで以上にテロを醸成する」と警告している。(つづく)
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