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2015-02-22 01:30

(連載2)MITスタイル対日本スタイル

池尾 愛子  早稲田大学教授
 3人の頭文字をとってHOS定理と略称される要素価格均等化定理を中心に据えた貿易論義に新風を吹き込んだのが、小島清氏(1920-2010)であったといえるのではないか。HOS定理には貿易を行う企業が登場しない。しかし日本では、貿易は特定種類の企業(総合商社など)によって担われる仕事であることが多かった。

 小島氏は太平洋自由貿易地域(PAFTA)等の研究会合を組織して、経済データ必携で、貿易問題、海外直接投資の動向、貿易と直接投資の関係、技術移転問題、(多国籍)企業の役割を研究した。小島氏の研究は英文の『海外直接投資』(1978年、再版2011年)と和文の『多国籍企業の直接投資』(1977年、改訂版1981年)に結実した。「小島氏の貢献は、多国籍企業が海外直接投資を行っていることが明らかにしたことである」とのコメントを聞いたことはある。

 HOS定理を参照した議論の影響は、貿易論だけではなく、国際経営、企業理論にまで幅広く奥深く及んでいる。日米間の比較が中心になるが、企業の役割は、市場で全ての取引を行うよりも「取引費用を節約できる」ことにあると、共通の経済用語で表現されるようになった。ただし、「(企業の)内部労働『市場』論」と「企業組織論」では似た事実を扱っていても、経済活動の相互調整(coordination)をめぐる議論の立て方が異なった。つまり、「企業の内側に市場がある」「市場は企業の外側にある」など、日米で「市場(market)」の位置づけと用語法が異なる例が見られたので、日米間で市場観・企業観が相違する場合があるといってよい。

 上述の問題に関して最近の文献を読んでいて何か漠然とした疑問に逢着した時には、小島氏の古典的英書『海外直接投資』を読むとよいのではないか。多くの議論がいち早く盛り込まれている。そして、彼の周辺から日本の経営学の国際化が進んだように思われる。ある人から問い合わせがあった3年前にこれらの論点に気づいていたならば、冒頭の書物に「HOS定理と海外直接投資」などといった章が入っていたかもしれない。間に合わなかったのは歴史家に責任があり遺憾であるが、このラインの研究は続けていくべきであると考えている。(おわり)
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