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2015-05-12 10:57

(連載2)「いずも」の実像

牛島 薫 大学生
 その点、ヘリコプターしか運用できず制空権を確保できない「いずも」は「ミニッツ」等とは異なる性格を持った艦艇であることが分かる。政府が「いずも」について「『攻撃型』空母ではない」と表現する理由はそこにある。空母かどうかと聞かれれば答えかねるが、真珠湾攻撃を行った「赤城」や北爆を繰り返した「コーラル・シー」といった代表的な空母とは異なる、他国を侵略する能力を持たない護衛艦であると言いたいのである。 



 実際のところ、「いずも」の運用能力はどのようなものだろうか。攻撃用ミサイルすら持たない「いずも」は、補給や災害対応能力を除けば特筆すべき能力は主に二つである。一つ目は、潜水艦と戦う船としての能力である。対潜ヘリコプター9機を運用可能とあり排水量の割に少なめに感じるが、前型のひゅうが型が4機であることを考えると、周辺海域の潜水艦の脅威に対応して対潜能力強化に成功したといえる。二つ目が、泳ぐ工場としての能力である。あたご型護衛艦が搭載する艦載ヘリコプターをはじめとする高度な機器を整備するプラットフォームとしての機能を持つのである。艦載ヘリ等が故障した時にそれぞれの護衛艦が、一々本土に戻る必要が減るのは有事には重要である。 



 F-35B戦闘機を搭載できるという報道がある。戦闘機を運用できればそれは立派な空母だと言ってよいだろう。ただ、軍事機密であろうから実際のところは不明だが、主翼が大き過ぎて艦内に格納できないため野晒しにはできても運用はできないというのがもっぱらの話である。また、改造もコストや搭載機数の過小がネックとなり事実上不可能であろう。ただ、万が一、空母改造を前提にDDHを造っている場合には話は違ってくる。まずないであろうが、もともとの設計が固定翼機を運用するための改造を施すことを前提としていたとすれば、もちろんF-35Bを搭載できるだろう。こういう例は戦前にはしばしばあった。補給艦から空母に改造された軍艦剣埼は、まさにその典型である。



 話がそれたが、ここから判ってくることは、哨戒して潜水艦を排除するのみという「いずも」の侵略的能力の低さである。例えば、米空母打撃群や中国が編成しようとしている空母部隊は空母を中心に据えて敵の策源地の無力化もしくは国土を潰滅させることを目的としているが、それは強力な戦闘機と各種軍艦の戦力投射能力を持つからこそできる事であって、上記のとおり「いずも」で真似することは不可能だ。むしろ、多くの国民が「いずも」に対して専守防衛の日本を体現したかのようだと安心し心強く思うのではないだろうか。(おわり)
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