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2015-08-21 10:37

(連載4)戦後70年の総理談話に想う

三浦 瑠麗  国際政治学者
 総理談話の発表を受け、新聞各紙をはじめとするメディアが論評を行っています。謝罪やお詫びなどのキーワードが、「間接的」であるというのが反対キャンペーンの中心のようです。「間接的」という評価は事実だろうと思います。談話を読まない方、あらかじめ心を閉ざしている方には、そうした批判は一定の効果をあげることでしょう。

 しかし、私は、そのこと自体は日本の民主主義の過程を経た「妥協」の結果として、それはしょうがないということだと思っています。さらに言えば、その妥協こそが評価できることであるとも思っています。左派の歴史観が国民の支持を集めなくなったからと言って、右派の歴史観を持ってきたところで、到底国民的合意が得られるわけではありません。また、右派と対立する社会党の党首がリベラルな価値観を提示しても、金字塔を打ち立てることができるわけではありません。保守がリベラルな価値観に歩み寄ったことこそが、国内の政治的和解や外交メッセージとして価値を生み出すのです。

 一つ推奨したいのは、談話を実際に読んでみることです。何を今更と言うことなく、もう読まれた方は、もう一度読んでみてはいかがだろうか。賛成できない箇所があったとしても、多くの国民は共感するのではないかと思います。私は、職業柄、日本政治における対立の存在に焦点を当ててしまいます。最近、同時に思うことは、日本人の間に存在する共感の方が、対立よりもはるかに大きいと言うことです。日本社会で表出されている対立は、良い意味でも、悪い意味でも、底の浅いものなのではないか。多くの国民は、案外、コンセンサスに近い認識を持っているのではないか。

 今般の総理談話の一番の特徴は、過去の反省を過去の評価にとどめおくのではなく、反省点を昇華させ、現代への指針とする姿勢です。戦争から70年の月日が過ぎたことを踏まえれば、方便としての謝罪よりも、よほど望まれる真摯な姿勢です。東アジアにおいて、歴史は同時に政治であるわけで、結果的には、中国をはじめとする周辺諸国への牽制効果もあるでしょう。このような姿勢を指して、未来志向という言葉が当てられます。それは、過去を水に流す姿勢ではありません。過去の教訓を、自らに課していく極めて倫理的な姿勢であり、茨の道でもあります。例えば、慰安婦問題を教訓として、談話は「21世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードします」と大見得を切りました。今後、日本はその言葉に違わぬ姿勢を示していくことが必要になります。一段重い責任を自ら背負い込んだわけです。その重みは、背負っていく意味のある重みです。日本の一番長い日は、深いところで感情の蠢く日です。政治家の靖国参拝、国内の意見対立、諸外国の反応、今年もいろいろあるでしょう。(おわり)
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