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2007-02-06 06:32

映画 『それでもボクはやってない』 をみて考えたこと

小笠原高雪  山梨学院大学教授
 最近話題の映画、『それでもボクはやってない』(監督・脚本:周防正行)をみる機会があった。この映画については御存知の方も少なくないと思うが、ごく簡単にいえば「痴漢冤罪事件」を主題とする作品であり、疑いをかけられた主人公は「疑わしきは罰する」といわんばかりの態度で扱われ、裁かれている。痴漢が憎むべき犯罪であり、被害者の救済が大切であることは当然である。しかし、だからといって、「犯人であるという確かな証拠がない限り、無罪である」という刑事裁判の大原則を軽んじてもよいのだろうか、というのがこの映画の提起している問題である。

 門外漢の筆者は、この映画がわが国の刑事裁判の姿をどの程度にまで正確に反映しているのかを判断できない。しかし、ひとたび起訴されたならば刑事裁判の九九パーセント以上は有罪になる、というのは一個の事実のようである。この高い有罪率にはそれなりの理由も伴っているようであるが、それにしても驚異的な高さであるというのが一般人の素朴な印象ではなかろうか。しかもその一般人が、「怪しいやつは捕まえておいたほうが犯罪の発生率が低くなる」といった思いを本音の部分で抱き、そうした本音が高い有罪率の背景に存在するとしたら、問題の根はそれだけ深いことになるであろう。

 筆者が以上のようなことを敢えて記したのは、「この映画をみた外国人はどのような感想を抱くであろうか」「それはわが国の国際的イメージにどのような影響を及ぼすだろうか」といったことがいささか気になったからである。わが国の外交はいま、国際社会における民主主義や人権の促進を目標の一つに掲げている。これは先進国の一員であるわが国としては当然のことであろう。しかし、同時に、国際社会に向かってそうした主張を行なう以上、国内の状況にもつねに自省の眼を向け、もし至らない点が発見された場合は改善してゆく努力がなされなくてはならないはずである。

 議論が飛躍するのを承知の上で付言すれば、この問題は日米同盟とも部分的に関連している。たとえば、日本にいる米軍人が公務外で刑事事件の被疑者となり、その処理の仕方をめぐって日米間に「摩擦」の起きるケースが過去に何度かあった。米国側の主張が正当だとは決まっていないし、国によって刑事司法制度に相違があるのも当然である。そうであれば、わが国としては明確な主張を行なうとともに、冷静な自省も忘れるべきではない、というのが一般論となるであろう。それは事件を適切に処理するためにも必要であるし、日米同盟の基礎を安定的に保つためにも必要であろう。
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