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2015-11-16 18:01

パリテロ事件:侵害リスクに脆弱な“近代人権思想”

倉西 雅子  政治学者
 先日、フランスの首都、パリで発生した同時テロは、死者120人を数える大規模テロの惨事となり、衝撃を以って全世界に報じられました。犠牲になられた方々、並びに、ご家族の方々には、心よりお悔やみ申し上げたいと思います。

 フランスは、大革命時に発せられた『人権宣言』でも知られるように、人間の基本的な権利や自由の尊重を、思想として全世界に広める役割を果たした国の一つでもあります。世界各国の憲法にもこの精神が息づいており、今では、基本的人権と自由の尊重は、人類共通の普遍的な価値として認められております。しかしながら、“生命や身体等に対する基本的な権利、並びに、宗教や思想等の基本的自由は、全ての人間に生まれながらに備わる天賦の権利である”とする思想は、時にして自己矛盾に直面します。その矛盾とは、人間の基本的権利や自由を侵害する者もまた、人間であるという矛盾です。

 この点について、近代人権思想よりも遥かに歴史を古く遡る刑法の世界では、被害者と加害者は明確に区別され、犯罪者と認定された人間に対しては、刑務所に収容したり、厳しい刑罰を科しています。今日では、死刑が廃止されている諸国が増えましたが、究極的には極悪非道な犯罪者に対してはその生命を奪うことも許されるのです。言い換えますと、刑法では、犯罪者や加害者を、基本的権利の保障対象から排除しているのです。ところが、普遍的人権思想では、犯罪者や危険思想の持ち主をも保護されるべき人間に含めるため、侵害リスクを排除する行為を論理的に正当化することが困難な側面があります。このため、しばしば、人権思想が犯罪やテロに温床を提供する現象が発生し、あろうことか、人権思想が人権侵害に加担するという本末転倒の矛盾が起きるのです。

 人としての基本的な権利が尊重されるべきは言うまでもないことですが、“普遍的人権思想”が、侵害リスクに対して脆弱であるという弱点は、全人類が認識しておくべき必要があります。近代人権思想の発祥の地であるフランスで起きた凄惨なテロ事件は、加害者擁護、あるいは、寛容一辺倒となりやすい今日の基本的な権利と自由の保障のあり方、並びに社会の安全について、原点に返って再考すべきことを示唆しているようにも思えるのです。
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