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2015-12-03 13:36

不安が漂うパリ同時テロ遺族のメッセージ

倉西 雅子  政治学者
 パリの同時テロ事件で夫人を亡くされた仏人ジャーナリストのアントワーヌ・レスリ氏が、犯人のテロリストに宛ててFB上に認めた手紙が共感を呼んでいるそうです。「金曜の夜、最愛の人を奪われたが、君たちを憎むつもりはない」と。

 文面を読みますと、レスリ氏は、“テロリストの目的とは、人の心に憎しみを抱かせる行為を敢えて実行することで、人類社会に憎しみの連鎖をもたらすことにある”と理解しているようです。そうであればこそ、“憎しみに対して憎しみを返さない”ことは、テロリストの目的達成の阻止、即ち、テロリストに対する勝利を意味するのです。しかしながら、憎悪の感情を抜きにしても、無差別殺人という罪には、それに相応する罰を与えなければなりませんし、心理的なテロへの無反応に繋がれば、被害者を増やしてしまいます。また、加害者に対して憎しみや怒りの感情を持つことは人間の本能的な心理ですので、レスリ氏の善意は、テロリストを憎む他の被害者遺族を苦しめるかもしれません。レスリ氏によれば、こうした人々は、“君たちと同じ無知に屈した”人々と見なされるのですから。

 こうした点を考慮しますと、安易な共感には疑問を感じるのですが、もう一つ、指摘すべき点を挙げるとしますと、レスリ氏は、言葉とは裏腹に、心の奥底ではテロリストを憎んでいると推察されることです。レスリ氏は、テロ以前の日常生活を続けることを以って“勝利”を宣言しておりますが、文面に散見されるテロリストに対する“勝ち”に拘る姿勢には、テロリストに対して“負け”を断じて認めない強固な意志が感じられます。おそらく、レスリ氏自身は自らの深層心理に無自覚であり、意図もしていないのでしょうが、テロリスト達は、このメッセージを挑戦状と受け取るかもしれないのです。

 テロリストが、このメッセージから自らに対する“宗教的な高み”からの侮蔑を読み取るとしますと(“君たちは死んだ魂だ”“君たちが決してたどり着けない自由な魂たちの天国”…)、テロリストの反発を呼び起こし、レスリ氏の明示された意図とは逆に、憎しみの連鎖は続くことになるでしょう。テロリストに対して良心や道徳心を説いても改心を期待することは難しく、ややもすれば逆効果となる現状こそ、テロリスト問題の深刻さを表わしていると思うのです。
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