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2015-12-24 11:24

国民国家悪玉論への疑問:非国家集団も戦争・内乱・テロの要因

倉西 雅子  政治学者
 第二次世界大戦後、国民国家は戦争を興す元凶と見なされ、批判の的となってきました。各国の飽くなき国益の追求こそが、戦争の主要因である、と…。

 この見解に立脚しますと、国家から構成される国民国家体系は平和に対する重大な脅威であり、それ故に、平和を実現するために国家を弱体化する、あるいは、廃絶に持ち込むことを“正義”とする論調も生まれてきました。特に、カール・マルクスが国家消滅論を唱えたため、政治家であれ、知識人であれ、左派の多くは国家を敵視したのです(もっとも、共産主義の本家となったソ連邦も中国も、現実には、国家主義の権化となりましたが…)。しかしながら、この見解は、現実に起きている現象から反証を受けています。

 第一に、ナポレオン戦争をはじめ、二度の世界大戦の背後にも、ユダヤ系金融勢力の暗躍が指摘されており、戦争の勃発、長期化、激化…の要因として国家以外の勢力が蠢いている現実があります。この点は、相互依存論が見落としている側面であり、国際的な経済関係の拡大は、時にして戦争を“ビッグなビジネス・チャンス”と化してしまうのです。第二に、ヘロドトスが既にその事例を『歴史』において報告しているように、移民集団は、古来、内乱や内戦の原因ともなってきました。国家が消滅するとしますと、際限のない人の流動化が起きるわけですから、争いが起きないはずもありません。現に、イスラム過激派は、国境を越えたネットワークを介してテロを仕掛けています。将来、人類は、人種、宗教・宗派、民族…などが入り乱れた騒乱の時代を迎えるかもしれません。第三に指摘すべきは、国家の機能不全が起きている、あるいは、過酷な支配が行われている地域ほど、住民の流出が起きていることです。このことは、国家機能が存在しない状態では、人々の命さえ危険に晒され、平穏な生活など望むべくもないことを示しています。国家が消滅した場合、避難民を受け入れる受け皿もなくなるわけですから、一体、人類は、どこでどのような生活を送ればよいのでしょうか。第四に、今日の国際法は、国民国家体系を前提としておりますので、国家の消滅は、国内のみならず、国際社会における法の支配の消滅をも帰結します。そして、失われる諸価値は、法の支配のみではないのです。

 国民国家体系が破壊された後、人類は、国家ではなく、最後に勝ち残った特定の非国家集団に支配されるのかもしれません。現状では、最後の勝者については、既に国際ネットワークを世界大に張り巡らしており、かつ、団結力や縁故意識が強いユダヤ人、華人、そして、イスラム教徒等が有利な状態にあります。仮にこのような展開になれば、多くの人々は、国家を壊したことを後悔するのではないでしょうか。
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