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2016-01-26 15:35

(連載1)ロールス・ロイス社国有化をめぐる国家と軍事産業の関係

河村  洋  外交評論家
 イギリスは昨年12月に海外企業による買収からロールス・ロイス社を救済するために国有化を考慮していると表明した。政府筋によるとロールス・ロイス社の国有化か、さもなければ同社の一部ないし全てをBAEシステムズ社と合併させるということである。ロールス・ロイスは2014年より船舶および航空エンジン部門の不振から株価が下がっている。そうした事情から、アメリカのプラット&ホイットニー社とドイツのシーメンス社がロールス・ロイスの航空エンジン部門を買収に乗り出した。キャメロン政権の政策が国家安全保障政策の立案者達が国家と軍事産業の関係についてどうするかという重大な問題を投げかけているが、それは企業の国有化とはきわめて保守党らしくないばかりかオールド・レイバーで失敗した政策だからである。マーガレット・サッチャーがこのことを聞けば驚愕するであろうことは疑いようもないが、それは1987年にこの会社を民営化したのが他ならぬ同首相(当時)だからである。

 このニュースが私の目をひいた理由は、佐藤正久参議院議員が昨年12月2日の本欄投稿で日本の防衛産業について問題提起をされたからである。佐藤氏は「企業の国有化が非現実的である以上、日本には防衛産業に小さな国内市場で利潤を挙げさせようという意志と具体的な取り組みが必要だ。そして日本の防衛調達がF35やV22といった輸入兵器の価格高騰に圧迫されていることにも懸念を抱く」との主張を掲げられている。防衛産業は戦略的な価値が高く、民間産業とは違って何らかの重商主義的な政策は不可避である。

 私がロールス・ロイスを取り上げるのは、この会社と日本の防衛産業には相通じるところが多く、注意深く観測すれば日本だけでなく他の国々で国防政策に携わる者達にとっても非常に有意義だと信ずるからである。日本の防衛企業と同様にロールス・ロイス社も有名軍事企業の間ではそれほど企業規模は大きくないが、高い技術水準である。『ディフェンス・ニューズ』紙の「世界軍事産業ランキング上位100社2015年版」によると、ロールス・ロイス社は15位で収益の軍事依存度は22.60%である。

 それに対し日本の防衛産業では三菱重工が36位で5.60%の依存度、IHIが91位で4.30%の依存度となっている。そうした軍事依存度の低さは、国防部門に大きく依存している大手軍事産業とは著しい対照を成している。実際に1位のロッキード・マーチン社は88.00%、3位のBAEシステムズ社は92.80%、4位のレイセオン社は97.40%、5位のジェネラル・ダイナミックス社は60.20%、6位のノースロップ・グラマン社は76.70%の収益を軍事部門に依存している。(つづく)
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