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2016-03-11 15:18

南シナ海“米中合意”の悪夢

倉西 雅子  政治学者
 当事国の間に垂直的な序列関係が形成され、主権平等の原則が脇に追いやられる場合には、対話路線は内政干渉のルートとなるリスクが高まります。その一方で、当事国間の関係が対等な場合でも、対話路線は、深刻なリスク、否、破滅的な結末をもたらすことがあります。

 今般、中国がパラセル諸島のウッディー島に地対空ミサイルを8基配備したことから、米中間の緊張が俄かに高まっております。軍事衝突の懸念から、先日、ケリー国務長官と王外相の間で会談が持たれたと報じられており、ここにも、話し合い解決への期待が伺えます。ウッディー島のミサイル配備は、アメリカが遂行している「航行の自由作戦」に対する牽制と見なされていますが、果たして、話し合いでの解決は可能なのでしょうか。仮に、“話し合い解決”に至った場合、その解決は、中国の違法行為を止められるか、否かをめぐる、二つに一つとなります。

 国際秩序の守護者としてのアメリカにとりましては、前者を期待しての会談となりますが、一方の当事国である中国は、後者を目的に会談の席に臨むはずです。仮に、中国が譲歩して南シナ海の軍事化を断念するならば、アメリカ外交の成功例となりますが、このシナリオが実現する可能性はそれ程高くはありません。習政権の基盤は、人民解放軍にありますので、対米譲歩は、自らの“命取り”ともなるからです。となりますと、逆に、アメリカが中国に屈し、中国の国際法上の違法行為を認める形で両国間で妥協が“話し合い解決”となるのですが、それは、日本国も含む国際社会にとりまして、悪夢以外の何ものでもありません。これでは、檻(国際法秩序の枠)に入れていたはずの猛獣を、怖いばかりにその要求を飲んで、檻を自らの手で壊してしまうようなものです。檻の中の猛獣より、野に放った猛獣の方が遥かに危険であるにも拘わらず…。檻の周りに集まった人の中には、“猛獣はここまで大きく育ったのだから、そろそろ檻を開けて自由にしてやるべきだ”と主張する人もいるのです。ヒトラーに対する大幅な譲歩であった「ミュンヘンの融和」も、当時の国際社会は、平和的解決として拍手喝さいを送りましたが、“融和”即ち、“話し合い解決”は、第二次世界大戦に帰結しています。今日の南シナ海の危機においても、歴史は形を変えて繰り返されるのでしょうか。

 大国間の任意の合意が、即、国際社会の法秩序の消滅を意味するとしますと、たとえ両当事国が双方とも満足する内容であったとしても、この合意を他の諸国が手放しで歓迎するとは思えません。国際法秩序こそ、執行や司法制度が不完全であれ、全ての諸国の安全と権利を保障しているのですから。国際秩序を根底から揺るがし、将来的にリスクを増大させる合意であるならば、決裂を選択する方が賢明であると思うのです。
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