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2016-05-07 08:17

(連載2)国連と越境企業研究

池尾 愛子  早稲田大学教授
 そして、新興国の経済成長がグローバル化をもたらしてきたことが示唆される。成長する東アジアについてだけ新興経済と言い換えられることになるが、香港、台湾、韓国の企業が、情報通信革命の基盤の一つとなる半導体の生産・輸出を増加させて世界から注目されるようになったことが興味深い。まもなくこれらの国の企業もFDIを展開するようになる。中国が1979年に開国開放後、外国の資本と技術にも扉を開け、UNCTCに技術的助言を受けていたことも興味深い。「知識、能力構築、政策分析」など、重要な論点や事実は3度以上は繰り返されていて、当該分野の専門家でなくても読み通して、要点を理解することができる。

 ただし、東アジア・東南アジアに関する研究が、他地域についての豊富な研究に比べて、英語で十分には発信されて来なかったのではないかという感想も持つ。例えば本書では、1990年代以降の途上国への助言として、「企業間リンク(linkages)」の構築の重要性が何度か提起されている。「企業間の(見えざる)リンク」は、生産工程を分割した上で部品・中間製品の供給のネットワークの構築に基礎をおく「サプライ・チェーン」につながるのではないか。

 1993年の欧州連合(EU)形成、東南アジア諸国連合(ASEAN)の自由貿易地域(AFTA)構築開始、およびそれ以降のEUとASEANの拡大、1994年の北米自由協定(NAFTA)の成立により、国際市場環境は激変した。その後は、1980年代に「ケイレツ(系列)」と呼ばれて日本市場の閉鎖性を象徴すると否定的に評価されていた企業間リンクであっても、それが海外に展開されると、途上国企業の市場アクセスを高めるものとして積極的評価を受けることになったのではないか。

 1964年のUNCTAD第1回創設会議において、越境企業のFDIに対してかなり積極的な評価がなされていたことは確かに驚きである。さらに、途上国はFDIの流れを呼び込む政策をとり、海外からの民間投資を促進するように励まされていた。中南米よりアジア諸国の方がFDIに好意的であったと書かれているが、その背景には東南アジア諸国の一部での経験が反映されていたのではないか。日本や東アジアの広域研究が、国際機関や海外の大学・機関で活躍する研究者たちにも利用可能な形で発進されることを望む次第である。(おわり)
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