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2007-03-02 14:21

連載投稿(3)中国のエネルギー対策と日中協力

池尾  愛子  早稲田大学教授
 2月9日のエネルギー・セミナーでの総括役の李志東氏(長岡技術科学大学経営情報系助教授)は、エネルギー需給の動向、エネルギー対策、日中協力の3点にまとめて、発表者たちの議論を要約するほか、いくつかの論点を追加した。1月24日の「日中対話」を参照して、李氏が追加した議論について、私の感想を4点にまとめて述べてみたい。

 第1に、李氏は、地球環境対策における京都メカニズムと同様に、省エネ対策には市場メカニズムとは別の人工的メカニズムが必要であるとした。それに対して、1月の「日中対話」での日本側パネリストの多くは、省エネは基本的には市場メカニズムに頼って実施すべきであり、国内エネルギー価格は国際市場水準に引き上げるべきであると主張したのであった。その理由は、李氏が賞賛する「日本の省エネ効率は世界一」を達成した「秘密」の一つが、石油ショックに対応してほかならぬ電力やガソリンの小売価格の引上げという市場メカニズムの活用と、それに対応した民間企業の技術開発努力にあったからである。私自身は2006年の中国でのある国際会議において、エネルギー浪費を防ぐ方策は何かとの質問を受けて、エネルギー価格の引上げであると答えたことがあり、そのときの中国の人たちのショックを受けた表情が脳裏に浮かんで躊躇はある。しかし、ほかに効果的な対策がないのも事実である。エネルギー価格が割安(でかつ人民元レートが割安)なので、李氏が指摘するように日本の省エネ技術が割高になっているのである。エネルギー価格が低い状況では、割安のエネルギーをたっぷり利用する技術を選択することが近視眼的経済合理性に適っており、中国の第2次産業に属する多くの企業が国有であるといえども、エネルギー安全保障問題(や環境)を考慮することなく、近視眼的経済合理性だけにもとづく行動をとっているのである。

 また、自動車などについては、1970年代以降、日本政府が厳しい燃費効率改善基準を設定しては改訂し、ここでも民間企業が技術開発に努力してその基準をクリアしてきたことも重要な「秘密」である。技術基準が達成できなければ、当該製品は市場から退場するか、他企業から技術導入することになる。政府が厳しい省エネ基準を設定し、民間企業はそれを突破する技術を導入するという方策は、省エネのための政策として理論化してよい。実際1月の「日中対話」では、国家開発改革委員会が、厳しい省エネ基準を設定し、それをクリアするために導入する必要のある技術について、各工場やプラントからの申請を受付け始めていることが紹介された。

 第2に、技術協力については、日本側は民間部門がかかわることなので、知的所有権の保護が必要であること以外には、簡単なことは言い難い。しかし、技術によって模倣しやすさの度合いが異なること、つまり、模倣が容易なものから模倣が困難なものまであることに注意することが必要であると思われる。もう少し詳しくいえば、完成品をよく観察すれば模倣できる技術や、必要な部品を調達すれば模倣できる組立技術から、マニュアルがあれば模倣できる技術、機械や設備の微調整や定期的なメンテナンスなどなくしては操業を継続できない模倣が困難な技術(ノウハウや「暗黙知」)まである。李氏のいう「導入後のケアや人材育成」が必要な技術は、簡単には模倣できない型のものである。技術協力といえども、必要な技術の性質を正確に把握して、長期契約を結ぶなどして適切に対処するべきであろう。(つづく)
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