国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-08-10 12:46

(連載2)EU問題と英語の行方

池尾 愛子  早稲田大学教授
 「経済通貨同盟(Economic and Monetary Union、EMU)が十全に機能することにより強く安定するユーロが、ヨーロッパの成長と雇用の基礎である」という。EMUは1993年のEUの誕生とともに、単一市場と単一通貨の創設を目指して始動した。EMUをより完成させていくためには、第1に、銀行同盟の役割を拡張して、経営困難に陥った銀行を処理するための共通のルールと基金の創設を含めなくてはならない。第2に、深化した経済同盟(a deeper economic union)が通貨同盟を基礎づけるべく、成長と競争力を引上げるための投資を行うとともに、社会的次元も強化しなければならない、とある。

 第3に、財政同盟(fiscal union)を設立して、健全財政の実現、危機に直面しての加盟国間の金融連帯を深化させなくてはならない。第4に、銀行同盟、経済同盟、財政同盟が矛盾なく機能し、かつ、加盟国政府の民主主義的説明責任と市民のEU政策形成への参加を保証するためには、政治同盟(political union)が必要である。「欧州委員会は真の政治同盟を発展させるために努力するであろう」と述べられている。

 誰に向けて書かれているのだろうか。欧州議会(European Parliament、EUの議会)、EU加盟国の議会や官僚なのであろうか。あるいは、ユーロ圏外からユーロ問題について批判的コメントが多いために、それに応えるために外向けに書かれているのだろうか。また、「EU解説」は平易で発音しやすい英語で書かれていると感じられる。ただ、政府の歳入が government revenue ではなく、government income とされ、補助金はsubsidy ではなく financial support となっていて驚いた。用語解説で最初に出てくるのは競争力(competitiveness)である。EUの市民や経済学領域の専門家を対象としているわけではないのだろう。EU解説には「競争:市場機能の改善(Competition: Making markets work better)」(2014年)もある。EU解説での経済用語について、経済学やその思想・歴史を専門とする研究者はどれほど関心を持ち論評しているのだろうか。

 EUが競争の推進者、グローバル化の推進者(の一つ)であることに疑問の余地はない。イギリス市民の多数がブレキジットに賛成投票を投じたあとだけに、英語の行方が気になる。英語を公用語とするEU加盟国が他にもあるので英語はEU公用語の一つとして使われ続けてゆくのであろう。通貨問題というかなり専門性の高い領域では国際経済学や為替理論の英語が(数学を軸にして)平明に整理されていて、(EU英語というよりは)欧州委員会(EC)英語は、国際化した経済英語に政府債務危機(Sovereign Debt Crisis)や競争力(competitiveness)などをキーワードとして位置づけたものようにみえる。しかし、数理経済学で支えられていない領域の英語が心配である。(数理経済学からはずれる)経済英語は(とりわけ)時代とともに議論の文脈とともに変化してきているのではないか。「官僚英語!」という論評だけでは済まされない時機に来ているのではないだろうか。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム