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2016-09-13 15:03

移民が社会問題化する理由

倉西 雅子  政治学者
 イギリスのEU離脱の主因となったように、移民問題は、今や世界共通の課題と化しています。この問題を、企業組織と社会秩序との違いを切り口として説明してみようと思います。

 EUでは、1958年のEEC設立時に際して、既に人の自由移動を原則に掲げています。EUの前身であるEEC(EC)は、経済統合を主たる目的として設立された地域経済圏であり、将来的には、あたかも国内市場のような単一市場の構築を目指していました。この目的は、EU発足後の1993年に凡そ達成されますが、人の自由移動が経済目的であったことは、それに伴う社会問題については殆ど配慮されていなかったことを示しています。

 経済活動の主体は企業ですので、企業が想定する“移民(外国人労働者)”とは、あくまでも自らの組織の内部の社員や従業員です。企業が組織である以上、その管理は決して難しくはありません。配属場所で一定の時間の間、企業側が指定した仕事に従事してもらい、その報酬としてお給料を支払えばよいのです。しかしながら、移民の人々は、1日24時間職場で勤務しているわけではなく、契約によって定められた勤務時間以外の時間は、自由に過ごすことができます。つまり、一歩、職場から外に出れば、社会の一員として生活することになるのです。ところが、移民の人々は、ここで、言語、生活習慣、宗教、価値観等の違いから様々な問題や摩擦を経験すると同時に、居住国の人々も戸惑うこととなります。移民の人々を社会統合しようとすれば、その家族を含めて手厚いサポートが要され、各種の社会保障や福祉など、様々な社会政策を実施しなければならなくなるからです。また、移民側の暴力を伴う拒絶反応や一方的な権利要求によって、社会的反発を引き起こすことも少なくはありません。企業と移民との関係は、お互いにフィフティ・フィフティですが、既存社会と移民との関係は、既存社会側の負担の方が遥かに重くなるのです。

 こうした側面を考えますと、移民受入政策は企業と移民にとっては利益とはなっても、一般の国民には不利益となり、国内において利益背反が生じます。そして、圧倒的多数は負担とリスクを背負わされる一般国民の方ですので、政府の移民促進政策に“待った”をかけるのも、理由がないわけではないのです。政府や経済界が、国内における一般国民の不満を理解しているのか、疑問なところなのです。
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