国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-11-30 15:57

“政治的トリレンマ”問題の解の一つは移民規制

倉西 雅子  政治学者
 政治的トリレンマとは、(1)経済グローバリゼーション、(2)国家主権(国家の自決権)並びに(3)民主主義の三者は同時に達成することができず、どれか一つを諦めなければならない、とするダニ・ロドリック・プリンストン高等研究所教授が唱えたパラドクスです。ロドリック氏自身は、第一のグローバリゼーションを犠牲にすべきと考えており、イギリスのEU離脱やアメリカの大統領選挙におけるトランプ氏の勝利に鑑みますと、歴史は氏の見解通りに進んでいるかのようです。

 それでは、経済のグローバリゼーションは、完全に消え去るべきなのでしょうか。自給自足可能な国は限られていますし、広く海外諸国と通商することは、国民生活の豊かさの源泉ともなります。ロドリック氏は、“経済グローバリゼーション”を、専門職であれ単純労働者であれ、国境を超えて人が自由に移動できる状態として描いていますが、この“経済グローバリゼーション”の定義に修正を加えるとしますと、この三者、何れか一つを犠牲にせずに済む可能性があります。

 現行の経済グローバリゼーションが、他の二者と両立しない理由は、先進国と後進国との間の雇用をめぐるゼロ・サム問題を引き起こし、先進国の中間層を破壊すると共に、固有の伝統や文化を培ってきた国家そのものの枠組みを融解させるところにあります。そして、先進国への移民の流入は、移民送出し国からしても、国家や自国経済の発展に必要となる高度人材の流出を意味します。つまり、移民を推進する今日の経済グローバリゼーションでは、知的財産も含めて、富の偏在が起こり、世界の多くの国々とその国民が豊かになるという人類的課題をクリアーできないのです。そこで、移民規制を企業の行動規範として国際ルール化しますと、グローバリゼーションのマイナス面は大幅に緩和されます。先進国の国民は、雇用不安の大半が解消されますし、主たる規制対象が“人”であれば、企業の海外でのビジネスチャンスは維持できます。一方の後進国も、先端技術を有する外国企業を受け入れつつ、人材流出が防止されることにより、先進国へのキャッチ・アップを早めることができるのです。

 この結果として、国家間の経済格差が縮小し、かつ、先進国の生活レベルを落とすことなく全世界の経済が発展するという新たなグローバリゼーションが出現するかもしれません。移民規制の他にも三者の調和には幾つかの方策を要しますが、こうした新たなグローバリゼーションであれば、国家主権と民主主義とも調和し、解き難き政治的トリレンマも解消されるのではないかと思うのです。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム